キックオフの時期に時間をかけてペルソナシートを作ったものの、プロジェクトが進むにつれて誰も参照しなくなり、気づけばドキュメントフォルダの奥に眠っている——プロダクトマネージャー(PdM)であれば、心当たりのある光景ではないでしょうか。
ペルソナは、本来「対象ユーザーの解像度を上げ、チームの意思決定を速くする」ための道具です。しかし、想像だけで作られたペルソナや、趣味・愛用ブランドといった意思決定に関係のない情報まで盛り込んだペルソナは、作った瞬間から形骸化する運命にあります。本記事では、ユーザーインタビューや行動データを土台に、実際の意思決定で使われ続けるペルソナを作るための5ステップを、よくある誤解とBtoB SaaSの具体例を交えて解説します。
ペルソナ作成でPdMが陥りがちな誤解
具体的なステップに入る前に、ペルソナ作成でよくある3つの誤解を整理しておきます。
誤解1:ペルソナは「想像で作る人物像」である。 チームメンバーの経験や勘だけをもとに「30代・田中さん・IT企業の情シス担当」のような人物像を作ってしまうケースは少なくありません。しかし、根拠のないペルソナは、たまたまチーム内の思い込みを補強するだけの存在になりがちです。ペルソナは創作物ではなく、インタビューや行動データという裏付けのある「要約」であるべきです。
誤解2:情報量が多いほど精度が高い。 名前、年齢、趣味、休日の過ごし方、愛用ブランドまで細かく設定したペルソナを見かけることがありますが、これらの多くはプロダクトの意思決定に影響しません。情報が多いほど「作り込んだ感」は出ますが、実務で参照されるかどうかとは別問題です。むしろ、意思決定に関わる情報が埋もれてしまい、かえって使われにくくなることもあります。
誤解3:一度作れば使い回せる。 ペルソナは一度作って終わりではなく、事業フェーズやユーザー層の変化に応じて更新が必要な「生きたドキュメント」です。サービス開始時に作ったペルソナを1年以上見直さずに使い続けている場合、実際のユーザー像との乖離が生まれている可能性があります。
精度の高いペルソナを作る実践5ステップ
ここからは、意思決定に使われ続けるペルソナを作るための5ステップを解説します。

ステップ1:このペルソナが使われる意思決定を定義する
最初に行うべきは、ペルソナシートのフォーマットを決めることではなく、「このペルソナを何の意思決定に使うのか」を明確にすることです。「新機能の優先順位を判断するため」「オンボーディングフローの設計を判断するため」など、用途を具体化しておくと、次のステップで収集すべき情報の範囲が自然と絞られます。
用途を定義せずに作り始めると、あらゆる属性情報を網羅しようとしてしまい、結果として「誰にでも当てはまる、誰の意思決定にも使えないペルソナ」ができあがってしまいます。
ステップ2:ユーザーインタビュー・行動データを収集する
用途が定まったら、実際のユーザーからデータを収集します。最も有効なのは、ユーザーインタビューを通じて、対象ユーザーの行動・目標・課題を定性的に把握することです。あわせて、プロダクト利用ログや顧客サポートの問い合わせ内容といった行動データを組み合わせると、インタビューで語られた内容が一部のユーザーに偏った意見なのか、多くのユーザーに共通する傾向なのかを検証できます。
このステップで重要なのは、想像や希望的観測を混ぜないことです。「こういうユーザーがいてほしい」という願望ベースの情報が紛れ込むと、ペルソナ全体の信頼性が損なわれます。
ステップ3:共通パターンを抽出し、セグメントに分類する
収集したインタビューや行動データを見返し、複数のユーザーに共通して現れる行動パターン・目標・課題をグルーピングします。ここで「1人だけが言っていた特殊な意見」と「複数人に共通する傾向」を区別することが、精度の高いペルソナを作る分かれ目になります。
グルーピングの結果、明確に異なる行動パターンやニーズを持つグループが複数見つかった場合は、無理に1つのペルソナにまとめず、セグメントごとに複数のペルソナを用意することを検討します。ただし、セグメントを増やしすぎるとチームがペルソナを覚えきれなくなるため、用途に照らして本当に区別する必要があるセグメントに絞り込むことが実務上のコツです。
ステップ4:ペルソナシートに落とし込む
セグメントが固まったら、意思決定に必要な情報だけを盛り込んだペルソナシートを作成します。最低限含めるべき項目は、次の4つです。
| 項目 | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 属性・利用文脈 | 業種・役職・利用頻度など | どのような状況でプロダクトに触れるかを把握する |
| 目標(ゴール) | プロダクトを通じて達成したいこと | 機能の優先順位を判断する軸にする |
| 課題・障壁 | 目標達成を妨げている要因 | 解決すべき課題を特定する |
| 意思決定への影響 | このペルソナがどんな判断に関わるか | ペルソナを実務で使う理由を明示する |
名前や写真、簡単な行動特性を添えるとチーム内でのイメージ共有はしやすくなりますが、これらはあくまで補助情報です。この4項目が空欄のまま体裁だけ整えたペルソナは、結局のところ意思決定には使えません。
ステップ5:チームに浸透させ、意思決定に活用する運用をつくる
ペルソナは作成して共有した時点では、まだ「存在するだけ」の状態です。実際に使われ続けるためには、意思決定の場に組み込む工夫が必要です。たとえば、PRD(プロダクト要求仕様書)の「対象ユーザーと利用シーン」の項目で、作成したペルソナを引用する運用にすると、企画のたびにペルソナを参照する習慣が自然と生まれます。
また、機能の優先順位を議論する会議で「この機能は、どのペルソナのどの課題を解決するのか」を問いかける習慣を作ると、ペルソナが単なる資料ではなく、日々の判断基準として機能し始めます。
具体例:BtoB SaaSの新機能検討におけるペルソナ活用
勤怠管理SaaSを提供する企業を例に、5ステップの流れを確認します。
まず用途を「次期リリースで着手する機能の優先順位を判断するため」と定義しました。ユーザーインタビューと利用ログを分析した結果、「毎日ログインして打刻するだけの一般社員」と「月末にまとめて部門全体の勤怠を確認・承認する管理職」という、明確に異なる行動パターンを持つ2つのセグメントが見つかりました。
一般社員向けには「打刻担当の佐藤さん(28歳・営業職):毎日の打刻を1秒でも早く終わらせたい、承認状況には関心が薄い」、管理職向けには「承認担当の鈴木さん(42歳・部門長):月末にまとめて確認するため、異常値だけを素早く見つけたい」という4項目を満たしたペルソナシートを作成しました。
このペルソナをもとに、「打刻画面のワンタップ化」と「承認画面での異常値ハイライト表示」という2つの機能案を比較したところ、どちらのペルソナのどの課題を解決するかが明確になり、開発リソースの配分についてチーム内で早期に合意形成ができました。
よくある質問(FAQ)
Q1. ペルソナはいくつ作ればよいですか?
用途に照らして本当に行動パターンが異なるセグメントの数だけ作るのが基本です。目安としては1〜3個程度に絞り込むケースが多く、5個を超えるとチームが覚えきれず、結局参照されなくなる傾向があります。
Q2. BtoBとBtoCでペルソナの作り方に違いはありますか?
BtoCでは個人の目標・課題を中心に描きますが、BtoBでは「利用者(現場担当者)」と「意思決定者(決裁権を持つ管理職)」のように、購買や契約に関わる複数の役割が存在することが多く、役割ごとに複数のペルソナを用意する必要がある点が異なります。
Q3. ペルソナとユーザーストーリーはどう違いますか?
ペルソナは「誰のためのプロダクトか」を表す人物像であり、ユーザーストーリーは「そのペルソナが何を達成するために、どんな機能を必要とするか」を1つの機能単位で表現したものです。ペルソナが土台にあることで、ユーザーストーリーの「なぜこの機能が必要か」という部分に説得力が生まれます。
Q4. ペルソナはどれくらいの頻度で見直すべきですか?
事業フェーズやユーザー層に大きな変化がない場合でも、半年から1年に一度は利用データやサポート問い合わせの傾向を確認し、実態とのズレがないかを点検することをおすすめします。ユーザー層が大きく変わるタイミング(新しい料金プランの投入、ターゲット市場の変更など)では、その都度見直しが必要です。
まとめ
意思決定に使われ続けるペルソナを作るには、まず「何の意思決定に使うか」を定義し、インタビューや行動データという裏付けをもとに共通パターンを抽出し、意思決定に必要な情報だけをペルソナシートに落とし込み、PRDや会議体などの実務プロセスに組み込むという5ステップが有効です。
重要なのは、詳細に作り込むことよりも、チームが判断に迷ったときに「あのペルソナならどう考えるか」と立ち返れる存在にすることです。まずは1つの用途を決めて、手元にあるインタビューデータからペルソナ作成に着手してみてください。
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