内製開発のコスト削減効果を検証する方法|「本当に安くなったのか」を数字で示す実践5ステップ

「内製化すればコストは下がるはず」という前提で開発チームを立ち上げたものの、1〜2年経った今、経営層から「実際いくら安くなったのか」と聞かれて答えに詰まる――内製開発を推進するIT責任者からよく聞く悩みです。エンジニアの人件費は把握できていても、それが外注していた場合と比べて本当に安いのかを、根拠を持って説明できる状態にはなっていないケースが少なくありません。

内製化の意思決定は「中長期的にコストが下がる」という仮説のもとに行われますが、その仮説を検証する仕組みを後から作ろうとすると、比較に必要な数字がすでに揃わなくなっていることがほとんどです。本記事では、内製開発によるコスト削減効果を、経営層にも納得してもらえる形で検証するための考え方と、実践的な5ステップを解説します。

目次

内製開発のコスト検証でよくある3つの落とし穴

具体的なステップに入る前に、内製開発のコスト検証の現場でよく見られる落とし穴を整理しておきます。

落とし穴1:エンジニアの人件費だけを外注費と比較してしまう。 「エンジニア1人の年収」と「外注の月額単価」を単純に並べて「内製の方が安い」と結論づけてしまうケースです。実際には、採用・教育コスト、開発環境やツールのライセンス費用、セキュリティ・ガバナンス体制の維持費用など、外注時には発生しなかったコストが内製には新たに発生しています。人件費のみの比較では、内製化の本当のコストを見誤ります。

落とし穴2:比較対象となる「外注シナリオ」を具体化していない。 「もし外注していたらいくらかかっていたか」という仮想のコストを見積もらないまま、「外注よりは安いはずだ」という印象論で語ってしまうケースです。比較対象が曖昧なままでは、どれだけ内製のコストを積み上げても、それが高いのか安いのかを判断できません。

落とし穴3:検証を「チームが軌道に乗ってから」まとめて行おうとする。 立ち上げ期は採用や教育に時間を取られ、コスト検証は後回しになりがちです。しかし、検証の起点となる「内製化前の外注コスト」の記録は、時間が経つほど社内から失われていきます。検証の設計は、内製化に踏み切る意思決定の段階から始めておく必要があります。

システム内製化と外注のどちらを選ぶべきかという意思決定そのものの判断基準については、以下の記事で詳しく解説しています。

📌 関連記事:システム内製化と外注の比較|判断基準となる5つの軸と失敗しない意思決定フレームワーク

内製開発のコスト削減効果を検証する実践5ステップ

ここからは、内製開発によるコスト削減効果を、根拠を持って検証するための5ステップを解説します。

ステップ1:比較対象となる「外注シナリオ」のコストを再現する

最初に行うべきは、「もし外注していたら、いくらかかっていたか」という仮想のコストを具体的な数字として再現することです。内製化前に実際に外注していた実績があれば、その時の月額単価・年間発注額をそのまま基準値として使えます。内製化前から自社開発だった、または外注実績が古い場合は、同等スコープの開発を委託した場合の相場を、複数の開発会社への見積もり取得や、業界の人月単価の目安から算出します。

このとき重要なのは、開発費用だけでなく、外注時に発生していたはずの「仕様調整・進捗管理にかかる自社側の工数」も含めて見積もることです。外注は開発費用そのものは明確でも、発注側の管理コストが見落とされがちで、これを含めないと内製との比較が不公平になります。

ステップ2:内製コストを「人件費」だけでなく総保有コスト(TCO)で計算する

外注シナリオが固まったら、内製側のコストを、エンジニアの人件費だけでなく総保有コスト(TCO:Total Cost of Ownership)として積み上げます。具体的には、エンジニアの給与・賞与・社会保険料に加え、採用活動にかかった費用、オンボーディングや教育にかかった期間の人件費、開発環境・ツールのライセンス費用、そしてセキュリティ・ガバナンス体制の維持にかかる費用までを含めます。

採用・育成コストの内訳を把握しておくと、TCOの精度が高まります。採用から育成までの実務プロセスは以下の記事で詳しく解説しています。

📌 関連記事:内製開発エンジニアの採用・育成方法|『採れない・育たない』を解決する実践フレームワーク

また、内製開発ではセキュリティ・ガバナンス体制の構築・運用にも一定のコストがかかります。これを見落とすと、実態より内製コストを低く見積もってしまいます。

📌 関連記事:内製開発のセキュリティ・ガバナンス体制構築ガイド|情報漏えいを防ぐ実務ステップと権限設計のポイント

ステップ3:比較する指標と測定期間を揃える

外注シナリオと内製のTCOがそれぞれ算出できたら、両者を同じ条件で比較できるように、指標の定義と測定期間を揃えます。たとえば「年間の開発・運用コスト総額」を比較指標とするなら、外注時代も内製後も同じ期間(1年間)・同じ範囲(開発費用+管理工数、または開発費用+TCO)で揃えて計算する必要があります。

測定期間がずれていたり、比較する範囲が片方だけ広かったりすると、どれだけ精緻に数字を積み上げても、比較結果自体の信頼性が損なわれます。効果測定を設計する際の指標定義・測定頻度の考え方は、DX推進全般のKPI効果測定とも共通する部分が多く、以下の記事も参考になります。

📌 関連記事:DX推進のKPI設定・効果測定方法|成果が「見えない」を防ぐ実践5ステップ

ステップ4:定量的なコスト差だけでなく、スピード・柔軟性の効果も併せて記録する

内製化の効果は、コスト削減額だけで測れるものではありません。仕様変更への対応スピード、リリース頻度、緊急の不具合対応にかかる時間など、外注では得にくかった柔軟性の効果も、定性的な記録として残しておきます。

たとえば「外注時代は仕様変更の反映に平均2週間かかっていたが、内製化後は3日で対応できている」といった記録は、コスト削減額だけでは伝わらない内製化の価値を経営層に示す材料になります。定量的なコスト差が想定より小さかった場合でも、こうした定性的な効果を併せて提示することで、内製化の投資判断がより正確に評価されます。

ステップ5:検証結果を定期的に経営層へ報告し、体制の見直しにつなげる

コスト検証は一度実施して終わりではなく、四半期や半期など定期的なサイクルで継続することが重要です。内製チームの規模が拡大したり、担当するシステムの範囲が広がったりすると、TCOの構成も変化するため、検証結果も更新していく必要があります。

報告の際は、コスト削減額だけを強調するのではなく、削減できた要因(採用が落ち着き教育コストが減った、開発効率が上がった等)と、想定より削減できていない要因を分けて説明します。想定より効果が出ていない場合は、その要因を分析した上で、チーム体制や外部委託の併用範囲を見直す判断材料として活用します。

具体例:従業員150名のSaaS企業における内製化コスト検証

従業員150名規模のSaaS企業を例に、5ステップの流れを確認します。

このSaaS企業では、これまでプロダクト開発の大部分を外部の開発会社に委託しており、年間の外注費用は約6,000万円(仕様調整・進捗管理にかかる自社側の工数を含む)でした。内製化に踏み切るにあたり、IT責任者は移行前の時点でこの外注コストをベースラインとして記録しました。

内製化から1年後、エンジニア5名体制のTCOを算出したところ、給与・社会保険料が約4,200万円、採用・教育コストが約600万円、ツール・インフラ費用が約300万円、セキュリティ・ガバナンス体制の維持費用が約200万円で、合計約5,300万円という結果になりました。単純な差額としては年間約700万円のコスト削減となりましたが、それに加えて「仕様変更の反映が平均2週間から3日に短縮された」「緊急の不具合対応を自社内で即日完結できるようになった」という定性的な効果も併せて記録しました。

この結果は、削減額の内訳(採用初年度のため教育コストが高く、2年目以降はさらに削減が見込まれる点)とあわせて経営層に報告され、次年度の内製チーム増員判断において、コストと柔軟性の両面から「投資に見合う効果が出ている」との評価を得ることにつながりました。

よくある質問(FAQ)

Q1. 内製化のコスト効果検証は、いつから始めるべきですか?

内製化を検討し始めた段階、遅くとも実際に内製化へ移行する前のタイミングで始めるべきです。移行前の外注コストという比較の起点(ベースライン)は、時間が経つほど社内の記録から失われやすく、後から正確に再現することが難しくなります。

Q2. 外注実績がない場合、比較対象のコストはどう見積もればよいですか?

複数の開発会社から同等スコープの見積もりを取得する方法や、業界標準の人月単価をもとに概算する方法があります。完全に正確な数字でなくても、比較の起点として一定の妥当性がある数字を確保することを優先してください。

Q3. TCOにはどこまでのコストを含めるべきですか?

人件費(給与・賞与・社会保険料)に加え、採用活動費、教育・オンボーディングにかかる人件費、開発環境やツールのライセンス費用、セキュリティ・ガバナンス体制の維持費用までを含めるのが基本です。これらを含めないと、内製コストを実態より低く見積もってしまいます。

Q4. コスト削減効果が出ていない場合、内製化は失敗と判断すべきですか?

コスト削減額だけで判断するのは早計です。仕様変更への対応スピードや緊急対応力など、コストには表れにくい定性的な効果も併せて評価し、想定より削減できていない要因を分析した上で、チーム体制や外部委託との併用範囲を見直す判断材料としてください。

Q5. コスト検証の結果は、どのくらいの頻度で経営層に報告すべきですか?

四半期または半期ごとの定期報告が目安です。内製チームの規模拡大や担当範囲の変化に応じてTCOの構成も変わるため、検証結果を定期的に更新し、体制の見直しにつなげられるサイクルを作ることが重要です。

まとめ

内製開発のコスト削減効果を検証する鍵は、比較対象となる外注シナリオのコストを具体的に再現し、内製コストを人件費だけでなくTCOとして計算し、両者を同じ条件で比較し、定量的なコスト差に加えて定性的な効果も記録した上で、検証結果を定期的に経営層へ報告するという5ステップにあります。

重要なのは、内製化が軌道に乗ってから検証方法を考えるのではなく、内製化に踏み切る意思決定の段階で「何と、何を、どう比較するか」を決めておくことです。まずは自社の内製化について、移行前の外注コストの記録が残っているかを確認するところから始めてみてください。


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この記事を書いた人

Kayoko Itoのアバター Kayoko Ito プロダクトマネージャー

東京工芸大学芸術学部卒業。IT企業での新規メディア開拓営業、広告プラットフォームの改善、ゲーム系メディア運営を経て、スキルシェアサービスのプロダクトオーナーとして牽引。

現在はフリーランスとして、新規事業・SaaS開発を支援するプロダクトマネージャー・UI/UXデザイナーとして活動。また、プロダクトマネージャーのメンタリングも行っています。

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