1人目のPdMの採用・育成|「採れない・育たない」を構造から解く5ステップ

「1人目のプロダクトマネージャー(PdM)が採れない」「採用できたのに、なかなか立ち上がらない」

プロダクトマネジメントを兼務してきた経営者から、この2つはほぼセットで伺います。そして多くの場合、採用の問題と育成の問題は、同じ一つの原因から出ています。

先に結論を書きます。

1人目のPdMは、通常の意味では「育成」できません。 社内に同じ職種の人がいないため、教える人も、評価できる人もいないからです。2人目以降なら1人目が育てられますが、1人目にはその相手がいません。

したがって設計すべきは育成計画ではなく、**「立ち上がりの設計」**です。本記事では、なぜこの構造が生まれるのかを説明したうえで、採用から最初の90日までを5つのステップに整理します。


目次

1人目のPdMが、特に難しい3つの理由

1. 教える人も、評価する人もいない

エンジニアの1人目であれば、外部の技術顧問やアドバイザーを立てる選択肢があり、コードという客観的な評価対象もあります。

PdMの場合、判断の良し悪しは事業の文脈に依存します。 同じ判断でも、事業の段階や顧客層が違えば評価は変わります。社外の人が「この優先順位付けは正しい」と評価することは、文脈を共有していない限り困難です。

社内で唯一評価できるのは社長ですが、その社長は自分の判断基準を言語化していないことがほとんどです。

2. 求める人物像が言語化されていない

「何を任せるか決められない」「求人票が書けない」という悩みの正体です。

社長は実際にPdM業務を回してきています。やってきたのに書けないのは、能力の問題ではなく、判断が身体化しているからです。 自転車の乗り方を文章で説明できないのと同じ構造です。

言語化されていない要件で募集をかけると、応募者に入社後の仕事を説明できません。経験のあるPdMほど、何を任されるか不明瞭な求人には応募しません。 これが「採れない」の主要因です。

3. 成果が出るまでが長く、しかも測りにくい

PdMの判断が事業数値に現れるまでには、開発期間とリリース後の検証期間が挟まります。半年経っても、良い判断だったのかは確定しません。

そのため「立ち上がっているのか」の判断が主観的になり、社長は不安になり、結果として口を出す量が増えます。これが後述する失敗パターンにつながります。


よくある3つの失敗

1.「優秀なPdM」を探してしまう

基準がない状態で人を見ると、評価は「話が上手いか」「経歴が立派か」に寄ります。しかし必要なのは、自社の事業段階で機能する人です。

大企業で大規模プロダクトを回してきた経験は、20名のスタートアップでそのまま活きるとは限りません。組織が整っている前提のスキルセットだからです。逆に、整っていない環境で自分で型を作ってきた人のほうが噛み合います。

「優秀か」ではなく「この段階に噛み合うか」で見てください。

2. 求人媒体だけに頼る

1人目のPdMを探す層は、そもそも転職市場に出ている人数が多くありません。知名度のないスタートアップが媒体経由で母集団を作るのは、構造的に不利です。

チャネルを複線化しないまま「応募が来ない」と焦ると、基準を下げてしまい、後のミスマッチにつながります。

3. いきなり全部任せる、または何も任せない

入社後に最も多い失敗です。

全部任せる場合:判断の根拠が渡されていないため、独自の解釈で進みます。動くものが出た段階で「思っていたものと違う」となり、双方に不信感が残ります。

何も任せない場合:社長が最終判断を握り続けるため、PdMは実質的に議事録係になります。優秀な人ほど早期に離れます。

どちらも「渡し方を設計していない」ことが原因です。


実践フレームワーク:5ステップ

ステップ1:社長の業務を棚卸しし、任せる範囲を決める

採用活動を始める前に、いま社長がやっていることを一覧にします。

そのうえで、次の3つに分けます。

分類扱い
手放せない事業の方向性、投資判断、価格決定社長が持ち続ける
渡していきたい機能の優先順位付け、要件の詰め、リリース判断これが求人票の中身になる
すぐ渡せる進行管理、ドキュメント整備、数値の集計初日から渡す

この棚卸しをすると、求人票が書けるようになります。 「何を任せるか決められない」という悩みは、たいていこの段階で解けます。

📌 関連記事:PRD(プロダクト要求仕様書)の書き方|社長の頭の中を「1人目のPdM」に渡すためのテンプレートと5項目

ステップ2:判断基準を1本、文書にする

棚卸しで「渡していきたい」に分類したものについて、直近の実例を1つ選び、なぜそう判断したのかを書きます。

抽象的な基準ではなく、具体的な1件で構いません。「この機能を先にやると決めたのは、7月の商談で3社から同じ要望が出て、うち1社が更新時期を控えていたから」というレベルです。

これが、面接で使える最も強い材料になります。「この判断、あなたならどうしますか」と聞けば、事業段階への適性が測れます。 経歴を聞くより精度が高く、応募者にとっても入社後のイメージが具体化します。

ステップ3:採用チャネルを複線化する

媒体だけに頼らず、次を組み合わせます。

  • リファラル … 既存の投資家・顧問・取引先からの紹介。この層は事業を理解しているため、精度が高い
  • ダイレクトリクルーティング … 社長自身が声をかける。1人目の採用では、社長が口説く動きが最も効きます
  • 業務委託からの正社員化 … 先に稼働してもらい、事業理解と相性を見極めてから正社員化する

3つ目は、1人目の採用で特に有効です。評価基準が確立していない状況で、いきなり正社員の意思決定をするリスクを下げられます。 応募者側にとっても、社内に同職種がいない環境に飛び込む不安が軽減されます。

📌 関連記事:PdMは採用すべきか、外部に頼むべきか|「人の内製化と外注」を判断する5つの軸

ステップ4:最初の90日を設計する

「育成計画」ではなく「立ち上がりの設計」です。目安を示します。

〜30日:文脈を渡す期間

商談への同席、解約したユーザーへのヒアリング、問い合わせ対応の閲覧。手を動かす前に、判断の材料に触れてもらいます。 ここを飛ばすと、その後の判断が一般論になります。

この期間は成果を求めないでください。分かっていない状態で判断させないことが、この30日の目的です。

〜60日:小さく判断してもらう期間

影響範囲の限られた領域から、判断を渡します。バグ修正の優先順位、既存機能の細かい改善など、間違っても取り返しがつく範囲です。

判断のたびに「なぜそうしたか」を聞き、社長の判断とずれていたら理由を説明します。この対話が、事実上の育成にあたります。

〜90日:範囲を広げる期間

判断の傾向が揃ってきたら、新機能の要件定義や優先順位付けなど、影響の大きい領域に広げます。

ステップ5:評価軸を決める(社長にしか決められない)

成果が測りにくい職種なので、評価軸を先に決めておかないと、印象で評価することになります。

初年度は、事業数値そのものではなく次の3点で見るのが現実的です。

  1. 判断の量 … 社長に確認せず決めた件数が増えているか
  2. 判断の再現性 … 社長が同じ判断をしたであろう割合
  3. 文書として残ったもの … 判断基準が社内に蓄積されているか

3番目が重要です。1人目のPdMの成果は、機能の数ではなく**「社長の頭の中にしかなかったものが、組織のものになったか」**で測れます。ここが動いていれば、2人目以降の採用が格段に楽になります。


具体例:シリーズA前後、従業員20名の企業

状況:社長がPdMを兼務。商談と仕様判断が競合し、どちらも中途半端になりつつある。

ステップ1の棚卸し:手放せない=価格と提携判断。渡していきたい=機能の優先順位付けとリリース判断。すぐ渡せる=進行管理と数値集計。

ステップ2:直近3件の優先順位判断について、理由を1ページずつ書き出した。書いてみると、判断軸が「更新時期が近い顧客の要望を優先する」という一貫したものだったと自分でも気づいた。

ステップ3:媒体と並行して、投資家経由で2名の紹介を受けた。うち1名と業務委託(週2日)で3ヶ月伴走し、そのまま正社員化。

ステップ4:最初の1ヶ月は商談同席と解約ヒアリングに充て、開発の意思決定には関与させなかった。社長は「時間がもったいない」と感じたが、2ヶ月目以降の判断のずれが明らかに少なかった。

ステップ5:半年後、社長が仕様会議に出る回数が週5回から週1回に減少。この数値の変化を、成果として扱った。


運用のコツ

1. 社外に相談相手を用意する。 1人目のPdMは、社内に同職種がいません。判断に迷ったとき、社長以外に聞ける相手がいない状態は本人にとって負荷が高く、離職の一因にもなります。外部の顧問やコミュニティなど、社長を介さずに相談できる接点を作っておくと、立ち上がりが安定します。

2. 口を出したくなったら、判断ではなく材料を渡す。 ずれを見つけたとき「こうして」と指示すると、判断の機会が失われます。**「その判断の前提として、この情報を知っているか」**という渡し方にすると、次から自分で判断できるようになります。

3. 社長の稼働時間を指標にする。 1人目のPdMが機能しているかは、社長がプロダクト関連に使っている時間の減少で測るのが最も分かりやすい方法です。増えているなら、渡し方に問題があります。


よくある質問(FAQ)

Q1. 未経験者やジュニアを採用して育てる選択肢はありますか?

1人目には推奨しません。 教える人が社内にいないため、育成コストのほとんどが社長にかかります。時間を空けるための採用が、逆に時間を奪う結果になります。ジュニアの採用は、1人目が立ち上がった後の2人目以降が現実的です。

Q2. どのくらいの経験年数を求めるべきですか?

年数より、**「整っていない環境で自分で型を作った経験があるか」**を見てください。大企業で分業された環境の経験年数は、スタートアップでの再現性が高くありません。

Q3. 立ち上がらない場合、いつ見切るべきですか?

判断を急ぐ前に、渡し方に問題がなかったかを確認してください。 判断の根拠を渡していない、あるいは判断の機会を与えていないケースが大半です。ステップ4の設計ができていなかった場合は、そこからやり直せば改善することがあります。

Q4. 社長が言語化を苦手としています。どうすればよいですか?

書けないのは普通です。対話形式にすると出てきます。 誰かに質問してもらいながら答える形にすると、身体化された判断が言葉になります。AIとの対話でも同様の効果があり、実際に有効性を確認しています。

📌 関連記事:AI時代のプロダクトマネージャーに必要なスキル|AIで自社サイトを作り直して分かった「代替されない仕事」


まとめ

1人目のPdMが「採れない・育たない」のは、次の構造から来ています。

  • 教える人も評価する人もいない —— 社内に同職種がいないため、通常の育成が成立しない
  • 求める人物像が言語化されていない —— 社長の判断が身体化しているため書けず、求人票が薄くなる
  • 成果が測りにくい —— 不安から口を出す量が増え、判断の機会が失われる

したがって設計すべきは育成計画ではなく、立ち上がりの設計です。

  1. 社長の業務を棚卸しし、任せる範囲を決める
  2. 判断基準を1本、文書にする(面接で最も効く材料になる)
  3. 採用チャネルを複線化する(業務委託からの正社員化が有効)
  4. 最初の90日を設計する(30日は文脈、60日は小さな判断、90日で範囲拡大)
  5. 評価軸を決める(判断の量・再現性・文書として残ったもの)

まずはステップ1の棚卸しから始めてみてください。求人票が書けないという状態は、この段階で解けます。 そして書き終えたときには、採用すべきか外部に頼むべきかの判断材料も揃っているはずです。


プロダクトマネジメントについてお気軽にご相談ください

プロダクトマネジメントの顧問支援や、1人目のPdM採用・育成のサポートを承っています。 「社長が兼務してきたが、そろそろ限界かもしれない」という段階からでもお気軽にご連絡ください。 おおむね2営業日以内にご返信します。

無料相談はこちら →

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Kayoko Itoのアバター Kayoko Ito プロダクトマネージャー

東京工芸大学芸術学部卒業。IT企業での新規メディア開拓営業、広告プラットフォームの改善、ゲーム系メディア運営を経て、スキルシェアサービスのプロダクトオーナーとして牽引。

現在はフリーランスとして、新規事業・SaaS開発を支援するプロダクトマネージャー・UI/UXデザイナーとして活動。また、プロダクトマネージャーのメンタリングも行っています。

目次