プロダクトの責任者を1人迎えようと考えたとき、最初に手が止まりやすいのが肩書きです。「CPOとして迎えるべきか、PdMとして迎えるべきか」。他社の求人や登壇資料を見ると、同じような規模の会社でもCPOを置いているところもあれば、PdMから始めているところもあり、どちらが正しいのか判断がつきません。
CPO(Chief Product Officer)とPdM(プロダクトマネージャー)は、どちらもプロダクトに責任を持つ役割です。ただし、担う判断の範囲と、経営との距離が異なります。そして、スタートアップの1人目としてどちらがふさわしいかは、世の中の一般的な定義よりも、「これまで経営者自身が担ってきたプロダクトの仕事のうち、どこを手放したいのか」によって決まります。
本記事では、CPOとPdMの役割の違いを整理したうえで、1人目をどちらとして迎えるかを判断するための4つの軸と、肩書きを決めるまでの進め方を解説します。
CPOとPdMの違いは「決める範囲」の違い
CPOとPdMの違いを一言でまとめると、CPOは「プロダクトに何を賭けるか」を決め、PdMは「そのために何をつくるか」を決める役割です。

CPOが担う範囲
CPOは経営チームの一員として、プロダクト全体の方向性に責任を持ちます。主な役割は次のとおりです。
- プロダクト戦略の策定:事業戦略を受けて、どの顧客のどの課題に、どの順番で投資するかを決めます。複数のプロダクトや事業領域がある場合は、その間の配分も担います。
- 経営との接続:経営会議や取締役会の場で、プロダクトの状況と今後の方針を説明し、資金や人員の配分について経営判断に参加します。
- プロダクト組織づくり:PdMやデザイナーの採用・育成、評価の仕組み、チームの分け方など、プロダクトをつくる組織そのものを設計します。
つまりCPOの仕事の多くは、個別の機能の中身ではなく、「プロダクトに関わる人・お金・時間をどこに振り向けるか」という配分の判断です。
PdMが担う範囲
PdMは、担当するプロダクトや領域について、「何を・なぜつくるか」に責任を持ちます。
- 課題の特定と検証:ユーザーインタビューやデータから、解くべき課題を見つけ、検証します。
- 優先順位とロードマップ:限られた開発リソースの中で、どの施策から着手するかを決め、関係者と合意します。
- 要件の具体化とリリースまでの推進:エンジニア・デザイナーと一緒に仕様を詰め、リリース後の効果検証まで回します。
PdMの仕事の中心は、日々の開発チームと向き合い、プロダクトを実際に前へ進めることです。
小さな組織では境界が重なる
ここまでの整理はあくまで一般的なものです。実際には、会社によって定義が大きく異なります。数十人規模の会社でCPOが自らバックログを管理していることもあれば、PdMが事業戦略の議論に深く関わっていることもあります。
特に従業員が数名から数十名のスタートアップでは、CPOとPdMの仕事はほぼ確実に重なります。1人目として迎える人は、肩書きがどちらであっても、戦略を考えながら日々の開発にも入ることになるためです。だからこそ、1人目の肩書きは「一般的な定義」ではなく「自社でその人に何を任せるか」から決める必要があります。
1人目の肩書きで迷うときに起きていること
CPOとPdMのどちらにするかで迷っているとき、多くの場合は肩書きそのものではなく、その手前の整理が済んでいないことが原因になっています。よく見られる状況は次の3つです。
1つ目は、任せたい仕事が言葉になっていないことです。 プロダクトの仕事を経営者自身が長く担ってきた場合、その中身は判断の積み重ねとして頭の中にあり、「どの仕事を・どこまで渡したいのか」が整理されていません。任せる範囲が曖昧なまま肩書きを先に決めようとするため、どちらの肩書きもしっくりこないという状態になります。
2つ目は、肩書きを採用の見え方で決めようとしていることです。 「CPOと書いた方が経験のある人が応募してくれそう」「PdMだと物足りないと思われるのでは」といった、採用市場での見え方を基準に考えると、入社後に期待と実態がずれやすくなります。CPOとして迎えた人が、実際には日々の仕様調整に追われ、経営判断には関われないという状況は、双方にとって不幸です。
3つ目は、経営者自身がプロダクトにどう関わり続けるかが決まっていないことです。 プロダクトの方向性を自分で持ち続けたいのか、それとも手放して経営の他の領域に集中したいのか。この意思が固まっていないと、CPOを置いても権限が曖昧になり、PdMを置いても経営者との役割分担が定まりません。
これらはいずれも、肩書きを考える前に整理しておくべきことです。次の章からは、この整理を4つの判断軸に分けて進めます。
1人目をCPOとPdMのどちらにするか:4つの判断軸
軸1:手放したいのは「方向を決めること」か「形にすること」か
最も重要な軸です。経営者がこれまで担ってきたプロダクトの仕事を、大きく2つに分けて考えます。
- 方向を決める仕事:どの顧客のどの課題に取り組むか、プロダクトをどの方向に伸ばすか、何をやらないかを決める
- 形にする仕事:決めた方向に沿って、機能の優先順位をつけ、仕様を詰め、開発チームと一緒にリリースまで進める
手放したいのが主に「形にする仕事」であり、方向性は引き続き経営者自身が持つのであれば、1人目はPdMとして迎えるのが自然です。一方、方向性の判断そのものを任せ、経営者は資金調達や営業など他の領域に軸足を移したいのであれば、CPOとして迎えることを検討する余地があります。
多くのスタートアップでは、プロダクトの方向性は事業の方向性とほぼ同じです。そのため、方向を決める仕事まで一度に手放すケースは、実際にはそれほど多くありません。まずは形にする仕事を渡し、方向を決める仕事は経営者と1人目が一緒に議論しながら、段階的に移していく進め方が現実的です。
軸2:プロダクトと開発チームの規模
CPOの役割の大きな部分は、複数のプロダクトやチームの間で、人と時間を配分することです。プロダクトが1つで、開発チームも数名の段階では、配分すべき対象がほとんどありません。この段階でCPOを置いても、実際の仕事はPdMとほぼ同じになります。
逆に、複数のプロダクトラインを抱えている、あるいは近いうちに開発チームを複数に分ける予定がある場合は、全体を見渡して配分を決める役割が必要になります。この場合は、CPOとして迎えるか、少なくとも将来CPOを担える前提で迎えることを検討します。
軸3:経営者自身がプロダクトに残るか
経営者がプロダクトの最終判断を引き続き持つのか、それとも手放すのかという軸です。
CPOを置くということは、プロダクトに関する最終判断を、経営者から別の人に移すことを意味します。経営者が今後も重要なプロダクトの判断に関わり続けたいのであれば、CPOを置いても実質的な権限は経営者に残り、肩書きと実態が一致しなくなります。この状態は、迎えた側にとって「CPOなのに決められない」というストレスにつながります。
経営者がプロダクトの最終判断に残る前提であれば、1人目はPdMとして迎え、判断の範囲を少しずつ広げていくほうが、役割と実態を一致させやすくなります。
軸4:プロダクト組織をつくる役割まで必要か
1人目に、プロダクトをつくるだけでなく、その後のPdMやデザイナーの採用・育成、プロダクト組織の設計まで期待するかどうかという軸です。
今後1〜2年のうちにPdMを複数名採用し、プロダクト組織を立ち上げる計画があるなら、その組織をつくる役割を誰が担うかを考える必要があります。経営者自身が担えない場合は、1人目にその役割を期待することになり、CPOとして迎える理由になります。
一方、当面は1人目のPdMとエンジニア・デザイナー数名という体制で進める見込みであれば、組織づくりの役割はまだ必要ありません。必要になった段階で、1人目の役割を広げるか、別の人を迎えるかを判断すれば十分です。
4つの軸のまとめ
4つの軸を整理すると、次のようになります。
| 判断軸 | PdMとして迎えるのが自然な状況 | CPOとして迎えることを検討する状況 |
|---|---|---|
| 手放したい仕事 | 主に「形にする仕事」 | 「方向を決める仕事」まで |
| プロダクト・チームの規模 | プロダクト1つ、開発チーム1つ | 複数のプロダクト・チーム、または分割予定がある |
| 経営者の関わり方 | プロダクトの最終判断に残る | 最終判断を手放し、他の領域に移る |
| 組織づくりの役割 | 当面は不要 | 1〜2年以内にプロダクト組織を立ち上げる |
すべての軸がどちらか一方にそろうことは多くありません。判断に迷う場合は、軸1と軸3を優先して考えます。この2つは「経営者が何を手放すか」に直結しており、ここがずれていると、どちらの肩書きを選んでも入社後に役割の食い違いが起きやすいためです。
肩書きを決めるまでの進め方
4つの軸で考える前提として、手放したい仕事が言葉になっている必要があります。実際の進め方は、次の4ステップです。
ステップ1:これまで担ってきたプロダクトの仕事を書き出す
まず、経営者自身がこれまで担ってきたプロダクトの仕事を、判断の単位で書き出します。「来期にどの顧客層を狙うか決めた」「営業からの要望を受けて、機能の優先順位を入れ替えた」「リリース前に仕様を最終確認した」といった、実際に行った判断を具体的に並べていきます。
ステップ2:書き出した仕事を「方向」と「形」に分ける
書き出した仕事を、軸1で整理した「方向を決める仕事」と「形にする仕事」に分類します。そのうえで、それぞれについて「1人目に任せたい」「自分に残したい」「当面は一緒に決めたい」の3つに振り分けます。
この振り分けを終えると、1人目に期待する役割の輪郭が見えてきます。「形にする仕事」がほとんどで、「方向を決める仕事」は一緒に決めたいものが中心であれば、PdMとして迎えるのが自然です。
ステップ3:残り3つの軸と照らし合わせる
ステップ2の結果を、軸2〜4(プロダクト・チームの規模、経営者の関わり方、組織づくりの役割)と照らし合わせます。この段階で、CPOとPdMのどちらがふさわしいか、おおよその方向が定まります。
判断がつかない場合は、「入社後1年間、この人に何を期待するか」を具体的に書き出してみてください。1年間の期待が「プロダクトを前に進めること」に集中しているなら、現時点ではPdMとして迎え、役割の広がりに応じて肩書きを見直す進め方で問題ありません。
ステップ4:求人票と面談で、肩書きと任せる範囲をセットで伝える
肩書きが決まったら、求人票やカジュアル面談の場で、肩書きと一緒に「具体的に任せる範囲」と「経営者に残る判断」を伝えます。候補者は肩書きから期待を想像するため、特にCPOとして迎える場合は、どこまでの権限を持つのかを明確に伝えることが、入社後の食い違いを防ぎます。
「まずPdMで迎え、後からCPOに」という選択肢
スタートアップの1人目としてよく選ばれるのが、最初はPdMとして迎え、プロダクトと組織の成長に合わせて役割を広げ、後からCPOに就いてもらうという進め方です。
この進め方には、次のような利点があります。
- 入社後に、経営者と1人目の間で判断の感覚を擦り合わせる時間が取れる
- 実際の働きぶりを見たうえで、方向を決める仕事をどこまで任せるかを判断できる
- プロダクトやチームの規模が小さい段階で、肩書きと実態がずれることを防げる
ただし、この進め方を選ぶ場合は、面談や入社時に「将来的にCPOを担ってもらう可能性がある」ことと、その判断の目安を伝えておくことが大切です。何も伝えずにPdMとして迎え、後から別の人をCPOとして外部から迎えると、1人目にとっては「自分が期待されていなかった」と受け取られかねません。将来の可能性を伝える場合も、確約ではなく、「プロダクト組織を立ち上げる段階で、役割の広げ方を一緒に考えたい」という形で伝えるのが誠実です。
反対に、最初からCPOとして迎えたものの、実際の仕事がPdMと変わらない状態が続く場合もあります。この場合も、肩書きを急に変えるのではなく、任せる範囲と期待を改めて話し合う場を設けることが先決です。
正社員で迎えるか、業務委託で始めるか
肩書きの判断とは別に、1人目を正社員で迎えるか、業務委託で始めるかという判断もあります。
CPOのように経営判断に深く関わる役割は、正社員や役員として迎えることが一般的です。一方、PdMとしての役割、特に「形にする仕事」を中心に任せる場合は、業務委託で始めて、プロダクトの仕事の中身を整理しながら体制を考えるという進め方もあります。
業務委託のPdMとして複数のスタートアップを支援していると、「CPOかPdMか」を決める前の段階、つまり任せたい仕事の整理そのものを一緒に進めるケースが少なくありません。外部の人と一緒に一定期間プロダクトを回してみることで、自社にとって1人目に必要な役割が見えてくることもあります。
よくある失敗
- 採用市場での見え方だけで肩書きを決める:「CPOの方が応募が集まりそう」という理由で肩書きを決めると、入社後に期待された権限と実際の仕事が合わず、早期の離職につながりやすくなります。
- CPOを置いたのに、経営者がプロダクトの判断を手放さない:CPOとして迎えたにもかかわらず、重要な判断はすべて経営者が行う状態が続くと、CPOは役割を果たせません。CPOを置くのであれば、どの判断を移すのかを事前に決めておく必要があります。
- PdMとして迎えたのに、戦略や組織づくりまで一人に背負わせる:肩書きはPdMでも、実際にはCPO相当の役割を期待し、しかも権限は渡していないという状態は、1人目に過度な負担をかけます。期待する範囲が広がったら、それに合わせて権限と肩書きを見直します。
- 任せる範囲を決めずに採用活動を始める:肩書きの前に任せる範囲が決まっていないと、面談のたびに候補者に伝える内容が変わり、候補者側も判断ができません。
具体例:CPOを検討していたが、PdMとして迎えたケース
従業員15名、創業4年目のBtoB SaaSスタートアップを想定した例です。経営者がプロダクトの責任者を兼務してきましたが、資金調達と大型顧客の営業に時間を取られるようになり、プロダクトの判断が滞りはじめていました。当初は「経験のある人をCPOとして迎え、プロダクトを任せたい」と考えていました。
そこで、まず経営者がこの半年間に行ったプロダクトの判断を書き出し、「方向を決める仕事」と「形にする仕事」に分けました。すると、判断の大半は機能の優先順位の入れ替えや、仕様の最終確認といった「形にする仕事」であることが分かりました。一方、どの顧客層を狙うか、どの機能に投資するかといった「方向を決める仕事」は、大型顧客との商談で得た情報に基づいて判断しており、経営者自身が持ち続けるほうが自然だという結論になりました。
プロダクトは1つ、開発チームはエンジニア5名の1チームで、当面チームを分ける予定もありませんでした。4つの軸と照らし合わせた結果、1人目はPdMとして迎え、面談では「入社後半年はロードマップと優先順位の判断を中心に担ってもらい、プロダクト組織を広げる段階で役割の広げ方を一緒に考えたい」と伝えることにしました。
このように整理してから採用活動を始めたことで、候補者に伝える内容がぶれなくなり、入社後も「どの判断を誰が行うか」についての食い違いが起きにくい状態で迎えることができました。
よくある質問(FAQ)
Q1. CPOとVPoP(VP of Product)はどう違いますか。
会社によって使い分けは異なりますが、一般的にはCPOが経営チームの一員としてプロダクト戦略に責任を持ち、VPoPはプロダクト組織の運営やPdMのマネジメントに責任を持つ役割として置かれることが多いです。スタートアップの1人目を考える段階では、VPoPを置くケースは多くありません。まずはCPOとPdMのどちらの役割に近いかを整理すれば十分です。
Q2. CTOがいる場合、CPOは必要ですか。
CTOは主に「どうつくるか」、つまり技術的な方針や開発組織に責任を持つ役割です。一方、CPOやPdMは「何を・なぜつくるか」に責任を持ちます。CTOがプロダクトの方向性まで担っている会社もありますが、技術と事業の両方を一人で見続けるのは負担が大きくなります。CTOがいる場合も、「何をつくるか」を誰が担うかは別に整理する必要があります。その役割をまず担う人としては、多くの場合PdMで十分です。
Q3. 1人目をCPOとして迎えた場合、その後PdMを採用するのはいつ頃ですか。
一律の目安はありません。CPOが方向を決める仕事と形にする仕事の両方を担い、手が回らなくなってきた段階が、PdMを迎える検討のタイミングです。CPO自身が「どの仕事を渡したいか」を言葉にできる状態になっていると、2人目以降の採用も進めやすくなります。
Q4. 候補者から「CPOのポジションはありますか」と聞かれた場合はどうすればよいですか。
その場で肩書きを約束するのではなく、現時点で任せたい範囲と、経営者に残る判断を率直に伝えることをおすすめします。そのうえで、プロダクトや組織の成長に合わせて役割を広げていく考えがあるなら、その判断の目安も合わせて伝えます。肩書きよりも実際に任される範囲を重視する候補者は少なくありません。
まとめ
CPOとPdMの違いは、CPOが「プロダクトに何を賭けるか」を決め、PdMが「そのために何をつくるか」を決めるという、判断の範囲の違いです。ただし、小さなスタートアップでは両者の仕事は大きく重なるため、1人目の肩書きは一般的な定義ではなく、「自社でその人に何を任せるか」から決める必要があります。
判断の軸は、(1)手放したいのは「方向を決める仕事」か「形にする仕事」か、(2)プロダクトと開発チームの規模、(3)経営者自身がプロダクトの最終判断に残るか、(4)プロダクト組織をつくる役割まで必要か、の4つです。特に(1)と(3)は、経営者が何を手放すかに直結するため、優先して考えます。
まずは、この半年間に自分が行ったプロダクトの判断を書き出し、「方向」と「形」に分けてみるところから始めてみてください。肩書きの答えは、その整理の先に自然と見えてきます。
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