スタートアップのプロダクト戦略の立て方|経営者が場当たり的な機能開発から抜け出す4つのステップ

自身がPdMを兼務している経営者から、「毎週のように機能追加の判断はしているのに、事業全体としてどこに向かっているのか、自分でも説明できなくなってきた」という相談を受けることがあります。目の前の顧客要望や競合の新機能に反応し続けているうちに、いつの間にか場当たり的な意思決定の連続になってしまう——これはリソースが限られたスタートアップほど起こりやすい状態です。

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本記事では、なぜプロダクト戦略が言語化されないまま進んでしまうのか、戦略とKPI・ロードマップ・バックログの違い、そして実際に戦略を立てる4つのステップを解説します。

目次

なぜプロダクト戦略が「言語化されない」まま進んでしまうのか

プロダクト戦略という言葉自体は知っていても、実際に文書として言語化している経営者は多くありません。理由は主に3つあります。

1つ目は、日々の意思決定に追われ、立ち止まる時間が取れないことです。 開発チームとの日次のすり合わせ、顧客からの問い合わせ対応、資金調達や採用など、経営者が兼務している業務は多岐にわたります。プロダクト戦略のように「すぐには締め切りが来ない」テーマは、後回しにされ続けてしまいます。

2つ目は、プロダクト戦略という言葉から、大企業の中期経営計画のような重厚なフレームワークを連想してしまうことです。 3〜5年単位の市場分析やポジショニングマップを作らなければいけないと思い込み、「今のフェーズでは早い」「そんな余裕はない」と着手を諦めてしまうケースが少なくありません。しかしスタートアップに必要なプロダクト戦略は、もっと軽量で構いません。

3つ目は、顧客要望に応えることそのものを「戦略」だと錯覚してしまうことです。 声の大きい顧客や、直近の商談で失注した理由に反応して機能を追加し続けると、短期的には合理的に見えても、積み重なった機能群に一貫性がなくなっていきます。これが「場当たり的な機能開発」の正体です。

プロダクト戦略とKPI・ロードマップ・バックログの違いを整理する

プロダクト戦略が言語化されないもう一つの理由は、KPI・OKR・ロードマップ・バックログといった、すでに耳なじみのある概念との違いが整理できていないことです。これらは戦略の「下位」に位置する実行の道具であり、混同すると戦略そのものが不要に感じられてしまいます。

階層1:プロダクト戦略。 「誰の、どんな課題を、どう解決するプロダクトか」という方向性そのものです。ここが定まっていないと、下位のすべての判断が場当たり的になります。

階層2:目標(OKR・KPI)。 戦略が正しく進んでいるかを測るための指標です。OKRとKPIツリーは似て見えますが役割が異なります。

📌 関連記事:OKRとKPIツリーの違いと使い分け方|目標管理と指標設計を混同しないための整理軸

戦略を数値目標に落とし込む具体的な進め方は、以下の記事で詳しく解説しています。

📌 関連記事:プロダクトマネージャーのOKR設定・運用方法|KPIとの違いから形骸化させない5ステップまで

📌 関連記事:プロダクトマネージャーのKPIツリー作り方|分解の手順と実例で「指標の迷子」を解消する

階層3:優先順位。 目標に対して、数ある候補の中から何から着手するかを決める段階です。RICEやMoSCoWといったフレームワークは、この階層で使う道具です。

📌 関連記事:RICEとMoSCoWの違いと使い分け|優先順位付けフレームワークを選ぶ基準

階層4:実行(ロードマップ・バックログ)。 優先順位が決まった施策を、いつ・どの順番で形にするかを示す計画です。

📌 関連記事:プロダクトマネージャーのロードマップ作り方|ステークホルダーを動かす5ステップと実践テンプレート

この4層構造で見ると、「機能を1つ足すかどうか」という日々の判断は本来、階層1の戦略から一貫して降りてくるはずのものです。戦略が言語化されていないと、階層3・4の判断だけが場当たり的に積み重なっていきます。

プロダクト戦略を立てる4つのステップ

戦略を軽量に、しかし実務で使える形で言語化するための4つのステップを紹介します。1人で着手する場合、1〜2週間もあれば最初のバージョンは作成できます。

ステップ1:前提を揃える

まず、事業のゴール(直近1年でどこまで到達したいか)、市場環境(顧客がどのような選択肢の中で自社を選んでいるか)、自社の強み(なぜ他ではなく自社が選ばれているか)の3点を、箇条書きで構いないので書き出します。ここで重要なのは正確さより、経営者自身の頭の中にある前提を一度紙に出すことです。曖昧なまま次のステップに進むと、後になって戦略の前提がぶれていることに気づきます。

ステップ2:「誰の・どんな課題を・どう解決するか」を1文で言語化する

前提が揃ったら、プロダクトが「誰の、どんな課題を、どう解決するものか」を1文にまとめます。この1文が、以降のあらゆる機能判断の基準になります。

この1文の精度を高めるには、実際の顧客理解が欠かせません。特定の顧客を深く見ることが、抽象的な市場分析よりも精度の高い戦略につながります。

📌 関連記事:プロダクトマネージャーのN1分析|「たった一人」を深く見ることが精度の高い意思決定につながる理由

📌 関連記事:プロダクトマネージャーのユーザーインタビュー進め方|設計から分析までの実践5ステップ

インタビューで得た理解を、チームで扱いやすい形に落とし込む際は、ペルソナの作成も有効です。

📌 関連記事:プロダクトマネージャーのペルソナ作成方法|インタビューを「使われるペルソナ」に変える5ステップ

ステップ3:「やらないこと」を決める

戦略の本質は、何をするかよりも何をしないかを決めることにあります。ステップ2で定めた1文に当てはまらない要望や機能は、たとえ売上につながりそうに見えても、原則としてやらないと決めます。「やらないこと」のリストを作り、顧客要望を断る際の説明にもそのまま使えるようにしておくと、日々の判断のたびに経営者が一から理由を考える手間がなくなります。

ステップ4:目標・優先順位・実行計画に接続する

最後に、言語化した戦略を階層2〜4につなげます。戦略が正しく進んでいるかを測るOKRやKPIを設定し、それに基づいて施策の優先順位をつけ、ロードマップに落とし込みます。この段階で、まだ検証されていない前提が含まれる場合は、大きく作り込む前に小さく検証することをおすすめします。

📌 関連記事:MVP仮説検証の進め方|社長が最小コストで確かめる4ステップ

よくあるつまずき

戦略を一度言語化しても、うまく機能しない場合は次の2つのいずれかが原因であることが多いです。

1つ目は、戦略を「一度決めたら終わり」だと考えてしまうことです。 市場環境や顧客理解は事業の進行とともに変化します。半期に一度など、あらかじめ見直しのタイミングを決めておかないと、戦略は古いまま放置され、いつの間にか現場の判断と乖離していきます。

2つ目は、戦略を経営者の頭の中だけに留めてしまうことです。 文書化されていない戦略は、経営者が説明するたびに少しずつニュアンスが変わり、チームメンバーによって理解が異なる状態を生みます。これは、経営者がプロダクト業務を兼務し続けることの限界とも重なる問題です。

📌 関連記事:プロダクトマネジメント兼務の限界とは|経営者が見落としがちな4つのサインと打ち手の選び方

具体例:従業員12名のBtoB SaaS企業

従業員12名、シードラウンド後のBtoB SaaS企業を例に考えます。経営者はこれまで、商談で聞いた要望や競合の新機能への対応を優先して機能追加を続けてきましたが、開発チームから「次に何を作るべきか、判断の軸が見えない」という声が上がるようになりました。

そこで前提の棚卸しから着手し、直近1年の事業ゴールと、既存顧客へのインタビューで見えてきた共通の課題を整理しました。その結果、「複数拠点を持つ中堅企業の、拠点間の在庫情報のズレを解消する」という1文に、プロダクトの方向性を絞り込みました。この1文に当てはまらない大企業向けの高度なカスタマイズ要望は、「やらないこと」として明文化し、商談の場でも一貫した説明ができるようになりました。

戦略を言語化してからは、四半期ごとのOKR設定と機能の優先順位付けが、この1文を基準に一貫して行えるようになり、開発チームからの「判断の軸が見えない」という声もなくなったといいます。

よくある質問(FAQ)

Q1. プロダクト戦略と事業戦略(ビジネス戦略)はどう違いますか?

事業戦略は、どの市場に参入し、どのような収益モデルで事業を成立させるかという、会社全体の方向性を扱います。プロダクト戦略は、その事業戦略を実現する手段として、プロダクトが「誰の、どんな課題を、どう解決するか」に焦点を絞ったものです。事業戦略が変わればプロダクト戦略も見直しが必要になる、上位・下位の関係にあります。

Q2. 戦略はどのくらいの頻度で見直すべきですか?

事業のフェーズによりますが、シード〜シリーズA程度のスタートアップであれば、半期に一度を目安に見直すことをおすすめします。ただし、大きな前提(主要顧客層や競合環境)が変化した場合は、期中であっても見直しのタイミングとして扱ってください。

Q3. 一人で戦略を立てる際、視野が狭くならないか不安です。どうすればいいですか?

経営者一人の頭の中だけで完結させず、ステップ2の「誰の、どんな課題を、どう解決するか」を言語化する段階で、実際の顧客インタビューやN1分析を通じて外部の情報を取り込むことが有効です。また、言語化した戦略はチームに共有し、フィードバックを受ける機会を設けることで、独りよがりな方向性になることを防げます。

Q4. 1人目のPdMを採用したら、戦略づくりは誰が担うべきですか?

採用直後は、経営者がこれまで言語化してきた戦略の背景をPdMに引き継ぐ期間が必要です。戦略そのものの意思決定は、事業全体への影響が大きいため当面は経営者が持ち続け、PdMには階層2〜4の目標設定・優先順位付け・実行計画から少しずつ主導権を渡していくのが現実的な進め方です。

📌 関連記事:PdMへの引き継ぎの進め方|1人目採用後に経営者が渡すべき業務と3つのステップ

まとめ

プロダクト戦略が言語化されないまま進んでしまうのは、日々の意思決定に追われていること、大企業向けの重厚なフレームワークを連想してしまうこと、そして顧客要望への対応そのものを戦略だと錯覚してしまうことが原因です。戦略はOKR・KPI・優先順位・ロードマップという実行の道具の土台であり、「前提を揃える」「誰の・どんな課題を・どう解決するかを1文にする」「やらないことを決める」「目標・優先順位・実行計画に接続する」の4ステップで、軽量かつ実務で使える形に言語化できます。

まずは1時間、事業のゴールと顧客理解を書き出すところから始めてみてください。


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この記事を書いた人

Kayoko Itoのアバター Kayoko Ito プロダクトマネージャー

東京工芸大学芸術学部卒業。IT企業での新規メディア開拓営業、広告プラットフォームの改善、ゲーム系メディア運営を経て、スキルシェアサービスのプロダクトオーナーとして牽引。

現在はフリーランスとして、新規事業・SaaS開発を支援するプロダクトマネージャー・UI/UXデザイナーとして活動。また、プロダクトマネージャーのメンタリングも行っています。

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