ノーススターメトリックの設定方法|経営者がKPIの先に置く「北極星指標」を1つに絞る4ステップ

OKRを設定し、KPIツリーで指標も分解した。それでも、週次のミーティングで「今週、本当に見るべき数字はどれか」という話になると、担当領域ごとに違う指標を持ち出してしまい、結局すべての数字を並べて眺めるだけで終わる——自身がPdMを兼務している経営者から、こうした相談を受けることがあります。指標が多すぎるのではなく、その中で「これが上がっていれば事業は正しい方向に進んでいる」と言い切れる1つの数字が定まっていないことが原因です。この1つの数字が、ノーススターメトリック(North Star Metric、以下NSM)です。

本記事では、NSMがOKR・KPIツリーとどう違うのか、良いNSMの条件、そして実際に1つの指標へ絞り込むための4つのステップを解説します。

目次

なぜノーススターメトリックが必要なのか

指標を1つに絞る取り組みは、一見するとシンプルすぎるように見えます。しかし、複数の指標を並列で追いかけている状態には、次のような弊害があります。

1つ目は、部門ごとに「良い数字」の定義がずれることです。 営業は商談化率を、開発はリリース速度を、それぞれ自分の持ち場で改善しやすい数字を優先しがちです。個々には正しい改善でも、事業全体としてどこに向かっているのかを説明する共通言語がありません。

2つ目は、施策の優先順位をつける基準が曖昧になることです。 「この機能はどの数字に効くのか」を問われたときに、答えが人によって異なる状態では、優先順位付けのフレームワーク(RICEやMoSCoWなど)を導入しても、スコアの前提となる評価軸自体がぶれてしまいます。

📌 関連記事:RICEとMoSCoWの違いと使い分け|優先順位付けフレームワークを選ぶ基準

3つ目は、経営者自身が「今、事業は良い状態なのか」を即答できないことです。 売上やMRRのような遅行指標だけを見ていると、問題に気づいた時にはすでに手遅れになっているケースが少なくありません。NSMは、遅行指標が動く前に「顧客が価値を感じているかどうか」を先行して示す指標として機能します。

OKR・KPIツリーとの違いを整理する

NSMという言葉を、OKRやKPIツリーの延長線上にある「もう1つの指標管理手法」だと捉えると混乱します。役割が異なるからです。

📌 関連記事:OKRとKPIツリーの違いと使い分け方|目標管理と指標設計を混同しないための整理軸

OKRは「今四半期、何を達成するか」という目標そのものです。KPIツリーは、最終的な成果指標(たとえば売上)を、日々の現場のアクションまで分解していく構造です。これに対してNSMは、KPIツリーの頂点に置く「その1つの指標」を選び抜く作業にあたります。KPIツリーを作る前に、まず頂点に何を置くべきかを決めるのがNSMの役割です。

📌 関連記事:プロダクトマネージャーのKPIツリー作り方|分解の手順と実例で「指標の迷子」を解消する

📌 関連記事:プロダクトマネージャーのOKR設定・運用方法|KPIとの違いから形骸化させない5ステップまで

つまり、NSM・KPIツリー・OKRは対立する概念ではなく、「NSM(頂点の1指標)→KPIツリー(分解した構造)→OKR(四半期の目標値)」という順番でつながる関係にあります。この順番を逆にして、先にOKRの目標値だけを決めてしまうと、達成しても事業成長につながらない目標を追いかけてしまうことがあります。

さらにその土台には、プロダクト戦略があります。「誰の、どんな課題を、どう解決するか」が定まっていなければ、NSMの候補を絞り込む基準そのものが定まりません。

📌 関連記事:スタートアップのプロダクト戦略の立て方|経営者が場当たり的な機能開発から抜け出す4つのステップ

良いノーススターメトリックの3つの条件

指標の候補はいくつも挙げられますが、そのすべてが良いNSMになるわけではありません。次の3条件をすべて満たす指標を選びます。

条件1:顧客が得た価値を表していること。 自社の売上や利用回数のような「自社都合の数字」ではなく、顧客の視点から見て「この数字が伸びている=自分にとって嬉しい状態が増えている」と言える指標であることが必要です。

条件2:売上などの遅行指標に先行して動くこと。 NSMが改善してから、数週間〜数か月後に売上や解約率といった遅行指標が動くという、時間差のある因果関係が確認できることが望ましい状態です。この時間差があるからこそ、問題が数字に表れる前に手を打てます。

条件3:プロダクトの改善によって動かせること。 どれだけ理想的な指標でも、営業の頑張りやマーケティング予算にしか左右されないものでは、プロダクトマネジメントの意思決定に使えません。機能追加やUX改善といった、プロダクト側の打ち手で動く指標である必要があります。

ノーススターメトリックを設定する4つのステップ

3条件を踏まえたうえで、実際に1つの指標へ絞り込む手順を紹介します。

ステップ1:候補となる指標を洗い出す

まず、良し悪しを判断せずに、事業に関わりそうな指標を10〜15個ほど書き出します。利用回数、継続率、投稿数、招待数など、日頃の会話で出てくる数字を思いつく限り挙げます。この段階で絞り込もうとすると、本来検討すべき候補が漏れてしまうため、まずは量を出すことを優先してください。

ステップ2:「顧客価値の表現」という軸で候補を絞る

洗い出した候補それぞれについて、「この数字が2倍になったら、顧客はどう喜ぶか」を1文で説明できるか確認します。説明に詰まる指標は、自社都合の数字である可能性が高く、候補から外します。この段階で、10〜15個の候補は3〜5個程度に絞られるはずです。

ステップ3:遅行指標との相関を確認する

残った候補について、過去のデータをさかのぼり、その指標が動いた後に売上や継続率がどう変化しているかを確認します。データの蓄積が浅いスタートアップでは厳密な相関分析が難しいこともありますが、その場合は「直感的に、この数字が伸びた月は解約が減っている実感があるか」といった定性的な確認でも構いません。完璧な統計的根拠を待つよりも、まず仮のNSMを置いて動かしながら検証する方が現実的です。

ステップ4:1つに決め、チームに理由ごと共有する

最後に、残った候補から1つを選びます。複数の指標が甲乙つけがたい場合は、条件3(プロダクトの打ち手で動かせるか)を優先して判断してください。選んだら、「なぜこの指標にしたのか」という選定理由をあわせてチームに共有します。理由を共有しないままNSMだけを掲げると、現場は「上から降りてきた数字」としか受け取らず、日々の判断に活かされません。

📌 関連記事:プロダクトのバックログ管理と優先順位付け|社長が握っている判断を「渡せる形」にする実践ステップ

よくある失敗

NSMを設定したあとに機能しなくなるケースの多くは、次の2つのいずれかに当てはまります。

1つ目は、NSMを売上の代理指標にしてしまうことです。 「結局は売上が一番大事だから」と、NSMに売上そのものやそれに近い指標(契約金額など)を据えてしまうと、遅行指標に先行するというNSM本来の役割を果たせません。売上はあくまでNSMが改善した結果として動くべき数字です。

2つ目は、決めたNSMを1年以上見直さずに固定してしまうことです。 事業のフェーズが変われば、顧客が求める価値も変わります。立ち上げ期は「初回の価値体験までたどり着いた人の数」が適切でも、成長期には「継続的に価値を得ている人の数」に切り替えるべき場面が出てきます。半期に一度など、プロダクト戦略の見直しにあわせてNSMも点検するタイミングを決めておくことをおすすめします。

具体例:BtoB SaaSの経費精算プロダクト

従業員18名、シリーズA前後のBtoB SaaS企業(経費精算プロダクト)を例に考えます。これまでは月間ログイン数をKPIツリーの頂点に置いていましたが、「ログインしても精算作業を完了せず離脱するユーザーが多い」という現場の声をきっかけに、NSMを見直すことにしました。

洗い出した候補の中から、「月内に経費精算を完了させたユーザー数」を仮のNSMとして設定しました。過去半年分のデータをさかのぼると、この数字が伸びた月の翌々月に解約率が低下する傾向が見え、条件2(遅行指標への先行性)を満たすことが確認できました。また、精算完了までのステップ数を減らすUI改善という、プロダクト側で直接動かせる打ち手があることも決め手になりました。

NSMを切り替えてからは、開発チームの機能提案が自然と「精算完了率を上げるか」という基準で語られるようになり、ログイン数を伸ばすためだけの通知機能のような施策が優先順位から外れるようになったといいます。

よくある質問(FAQ)

Q1. NSMは必ず1つに絞る必要がありますか?複数持ってはいけませんか?

複数の指標を「NSM」と呼んでしまうと、優先順位の判断基準として機能しなくなるため、最終的には1つに絞ることを推奨します。ただし、NSMを補完する2〜3個の「ヘルススコア指標」(NSMの改善が別の重要な数字を犠牲にしていないかを確認するための指標)を併用することは有効です。たとえば「精算完了率」をNSMにしつつ、「入力ミスによる差し戻し件数」をヘルススコアとして併記するといった形です。

Q2. データがまだ十分に蓄積されていないスタートアップでも設定できますか?

設定できます。むしろデータが少ない段階だからこそ、何を見るべきかを先に決めておく価値があります。統計的な裏付けが取れない場合は、条件1(顧客価値の表現)と条件3(プロダクトで動かせるか)の2つを優先して仮のNSMを置き、データが溜まってきた段階で条件2(遅行指標との相関)を検証し直す進め方で問題ありません。

Q3. NSMとOKRの目標値は、どちらから決めるべきですか?

NSMが先です。NSMという「見るべき1つの指標」を決めたうえで、その指標を今四半期どこまで伸ばすかという目標値をOKRのObjective・Key Resultに落とし込みます。順番を逆にすると、達成すること自体が目的化した目標値になりやすく、事業成長との結びつきが弱くなります。

Q4. 1人目のPdMが入った後、NSMの決定権はどちらが持つべきですか?

NSMはプロダクト戦略と直結する意思決定であるため、採用直後は経営者が持ち続け、選定理由をPdMに丁寧に引き継ぐことをおすすめします。KPIツリーへの分解や、日々の施策とNSMの紐付けといった運用面は、早い段階からPdMに主導権を渡していくのが現実的です。

📌 関連記事:PdMへの引き継ぎの進め方|1人目採用後に経営者が渡すべき業務と3つのステップ

まとめ

ノーススターメトリックは、OKRやKPIツリーに代わるものではなく、その頂点に置く「1つの指標」を選び抜く作業です。良いNSMは、顧客価値を表し、売上などの遅行指標に先行し、プロダクトの打ち手で動かせるという3条件を満たします。候補を広く洗い出し、顧客価値の軸で絞り込み、遅行指標との相関を確認し、理由ごとチームに共有するという4ステップで、日々の優先順位判断の基準を1つに揃えることができます。

まずは、今使っている指標を10個ほど書き出すところから始めてみてください。


プロダクトマネジメントについてお気軽にご相談ください

プロダクトマネジメントの顧問支援や、1人目のPdM採用・育成のサポートを承っています。 「経営者が兼務してきたが、そろそろ限界かもしれない」という段階からでもお気軽にご連絡ください。 おおむね2営業日以内にご返信します。

無料相談はこちら →

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Kayoko Itoのアバター Kayoko Ito プロダクトマネージャー

東京工芸大学芸術学部卒業。IT企業での新規メディア開拓営業、広告プラットフォームの改善、ゲーム系メディア運営を経て、スキルシェアサービスのプロダクトオーナーとして牽引。

現在はフリーランスとして、新規事業・SaaS開発を支援するプロダクトマネージャー・UI/UXデザイナーとして活動。また、プロダクトマネージャーのメンタリングも行っています。

目次