内製開発チームの立ち上げ方法|フェーズ別のステップと失敗しない採用・組織づくりの実践ガイド

「うちも内製開発チームを立ち上げたい」――経営会議やIT戦略の場で、こうした声が上がる企業が増えています。DX推進の文脈で内製化への関心が高まる一方、実際に着手すると「何から手をつければいいのか分からない」「エンジニアが採れない」「せっかく採用したのに定着しない」といった壁にすぐぶつかります。

内製開発チームの立ち上げは、単に「エンジニアを何人か採用する」だけでは成功しません。体制設計、採用戦略、チームビルディング、権限とガバナンスの整備までを一貫したプロセスとして進める必要があります。本記事では、内製開発チームをゼロから立ち上げる方法を、フェーズごとのステップに分解し、よくある失敗パターンと実践的な回避策とあわせて解説します。

目次

内製開発チームの立ち上げが難しい理由

内製開発チームの立ち上げが一筋縄でいかない理由は、大きく3つあります。

1つ目は、エンジニア採用市場の競争が依然として激しいことです。特に自社の事業ドメインを理解しながら開発できる人材は希少で、給与水準だけで大手IT企業やメガベンチャーと張り合うのは中小企業や非IT業種の企業にとって現実的ではありません。

2つ目は、「開発ができる」ことと「事業を成功させる開発チームを運営できる」ことは別のスキルセットであるという点です。優秀なエンジニアを採用できても、要件を整理する人、優先順位を決める人、事業側と橋渡しする人が不在だと、チームは技術的には正しくても事業に貢献しない開発を続けてしまいます。

3つ目は、立ち上げ初期の成果が出るまでに時間がかかることです。採用・オンボーディング・開発基盤の整備には最低でも半年〜1年単位の時間が必要になりますが、経営層は「なぜまだ成果が出ないのか」と焦りがちで、途中で予算や体制が縮小されてしまうケースも少なくありません。

これらの壁を乗り越えるには、思いつきで採用を始めるのではなく、フェーズを区切った計画的な立ち上げプロセスが必要です。

内製開発チーム立ち上げでよくある3つの失敗

具体的なステップに入る前に、現場でよく見る失敗パターンを押さえておきましょう。

1つ目は、「まず採用」から始めてしまう失敗です。 何を内製化したいのか、どのプロダクト・システムを誰がどう運営するのかという体制設計より先に採用活動を始めると、採用したエンジニアの役割が曖昧なまま宙に浮いてしまいます。求人票の要件も定まらず、応募者に「入社後どんな仕事をするのか」を説明できないため、採用競争力そのものが落ちる悪循環に陥ります。

2つ目は、いきなり大規模なチームを作ろうとする失敗です。 経営層の期待が大きいほど「最初から10名体制で」といった計画になりがちですが、立ち上げ初期に大人数を採用しても、指揮系統や開発プロセスが整っていない状態では機能しません。星野リゾートの内製化事例でも、最初は1人のエンジニアから始まり、段階的に組織を拡大していった経緯があります。少数精鋭で立ち上げ、成功パターンを確立してから拡大する方が、結果的に速く成長します。

3つ目は、既存の外注文化のまま内製チームを運営してしまう失敗です。 「仕様書を渡せば開発が進む」という外注時代の感覚のまま内製チームに接すると、エンジニアが単なる実装者として扱われ、事業への当事者意識を持てません。内製化の本質的なメリットは、開発チームが事業側と一体になって仮説検証を回せることにあります。この文化転換ができないと、内製化しても外注時代と大差ない開発スピードのままになってしまいます。

内製開発チーム立ち上げの実践フレームワーク:4フェーズ

内製開発チームの立ち上げは、次の4つのフェーズに分けて計画的に進めるのが実務的です。

フェーズ1:体制設計(0〜1ヶ月目)

最初に行うべきは、採用ではなく体制設計です。次の3点を明文化します。

  • 内製化のスコープ:どのプロダクト・システムを内製化するのか。全社のシステムをすべて内製化する必要はなく、まずは戦略的に重要度が高い1〜2システムに絞り込みます。
  • 推進責任者の設置:内製化を主導する責任者(VPoE、開発責任者、あるいは兼務のPdMなど)を明確に置きます。責任者不在のまま採用だけ進めると、入社したエンジニアの拠り所がなくなります。
  • 初期の役割定義:最初に採用すべきポジション(フルスタックエンジニア、PdM兼務者など)と、その人が担う責任範囲を定義します。立ち上げ期は職種を細分化しすぎず、「広く対応できる人材」を優先するのが定石です。

フェーズ2:初期採用とコアメンバー形成(1〜4ヶ月目)

体制設計ができたら、少数精鋭のコアメンバーを採用します。目安は2〜3名です。この段階では、技術力の高さだけでなく、事業やユーザーへの関心が強い人材を優先すべきです。技術特化型の人材より、「事業・UXに興味を持てるマインド」を持つ人材の方が、立ち上げ期のカオスな環境に適応しやすい傾向があります。

採用チャネルは、リファラル(社員紹介)とダイレクトリクルーティングを中心に据えると効果的です。立ち上げ期の内製開発チームは、求人媒体だけでの母集団形成が難しいため、経営層やCTO・VPoEクラスが直接カジュアル面談で口説く動きが欠かせません。

📌 関連記事:DX人材育成を社内で進める7つのステップ|失敗パターンと成功企業の実践ノウハウ

フェーズ3:開発プロセスと基盤の整備(3〜6ヶ月目)

コアメンバーが揃ったら、継続的に開発を回すための基盤を整備します。ここで整えるべきものは主に3つです。

  • 開発プロセス:スクラムやカンバンなど、チームの規模に合ったアジャイル開発プロセスを導入します。立ち上げ初期は厳密なスクラムより、週次の進捗共有と優先順位付けの仕組みがあれば十分に機能します。
  • 技術基盤:CI/CD、コードレビューの仕組み、開発環境の標準化など、後から負債になりやすい部分を早期に整えます。立ち上げ期に基盤整備を後回しにすると、チーム拡大時に技術的負債が一気に表面化します。
  • 事業側との連携フロー:事業責任者・PdMと開発チームの間で、要望をどう受け取り、優先順位をどう決め、進捗をどう共有するかのフローを定めます。ここが曖昧だと、せっかく内製化しても事業側からの「見えない開発チーム」になってしまいます。

フェーズ4:組織拡大とチーム定着(6ヶ月目以降)

初期の成果(小さくても事業に貢献した実績)が出始めたら、組織拡大のフェーズに入ります。この段階でのポイントは、採用ペースを急激に上げすぎないことです。1〜2名ずつ段階的に増やしながら、オンボーディングの仕組みやドキュメント文化を並行して整備していくことで、チームの一体感を保ったまま拡大できます。

チームの成長過程は、心理学者ブルース・タックマンが提唱した「タックマンモデル」の5段階(形成期・混乱期・統一期・機能期・散会期)で理解しておくと役立ちます。特に人数が増えるタイミングでは、一度チームの認識がずれる「混乱期」に入りやすいため、責任者は意図的に1on1やレトロスペクティブの頻度を上げ、チームの共通認識を再構築する必要があります。

📌 関連記事:プロダクトマネージャーのバックログ管理|優先順位付けの実践フレームワークと迷わない運用のコツ

具体例:製造業A社(従業員800名)の内製開発チーム立ち上げ

イメージをつかみやすくするため、製造業のA社(従業員800名)の事例を見てみます。

A社は、これまで基幹システムの改修をすべて外注SIerに依存していましたが、需要予測システムの精度改善という戦略的なテーマについては内製化を決断しました。最初に行ったのは、情報システム部長を推進責任者に任命し、「需要予測システムに限定して内製化する」というスコープの明確化です。全社システムを一気に内製化しようとせず、対象を絞り込んだことがポイントでした。

採用は、社内公募で製造現場出身のデータ分析経験者1名を異動させ、外部からデータエンジニア1名をリファラルで採用するところからスタート。合計2名の小規模チームで着手し、既存の外注SIerとは並走する形で「一部機能だけ内製で先に試作する」というアプローチを取りました。

半年後、内製チームが試作した需要予測ロジックの精度が外注時代を上回る結果を出したことで、経営層の信頼を獲得し、翌年度にチームを5名体制に拡大。この過程で、情報システム部長は意図的に週次の振り返りミーティングを設け、チーム拡大に伴う認識のズレを早期に解消する運用を続けていました。

内製開発チームを定着させるための3つの運用のコツ

立ち上げて終わりではなく、継続的にチームを機能させるための実践的なコツを紹介します。

1. 早い段階で小さな成功体験を作る。 大規模な機能開発ではなく、数週間〜1ヶ月で成果が見える小さなプロジェクトから着手し、経営層や事業側に内製化の価値を実感してもらうことが、その後の予算・体制確保に直結します。

2. エンジニアの評価制度を別途整備する。 既存の営業職や事務職向けの評価制度をそのまま内製エンジニアに適用すると、成果や成長の測り方がミスマッチを起こし、離職の原因になります。技術力の成長やアウトカムへの貢献度を測る、開発職向けの評価軸を早期に用意しましょう。

3. 外部コミュニティとのつながりを維持する。 内製化したばかりのチームは、社内に技術的な相談相手が少なく、孤立しがちです。勉強会やカンファレンスへの参加を後押しし、外部の知見を取り入れられる状態を維持することで、技術的な停滞を防げます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 内製開発チームは何人から始めるべきですか?

多くの成功事例では1〜3名から始まっています。最初から大人数を揃えるより、少数精鋭でスコープを絞った成果を出し、信頼を獲得してから拡大する方が現実的です。

Q2. エンジニアが採用できない場合、どうすればいいですか?

正社員採用にこだわらず、業務委託やラボ型契約で立ち上げ期の実働を補いながら、並行して正社員採用を進めるハイブリッドなアプローチも有効です。ただし、将来的に社内にノウハウを残したい領域は、早めに正社員化の道筋を作っておくことをおすすめします。

Q3. 情シス部門やDX推進部門と、内製開発チームはどう住み分ければいいですか?

情シス部門は既存インフラの安定運用、DX推進部門は全社的な変革の旗振り、内製開発チームは特定プロダクト・システムの開発実行、という役割分担が基本形です。組織図上どこに内製開発チームを置くかは会社によって異なりますが、責任範囲を重複させないよう事前に整理しておくことが重要です。

Q4. 内製化してもうまくいかない場合、どう見直せばいいですか?

まず、採用したメンバーのスキルと担当領域のミスマッチがないか、事業側との連携フローが機能しているかを点検します。それでも改善しない場合は、無理にすべてを内製で抱えず、一部を外注やラボ型に戻すハイブリッド運用への切り替えも選択肢に入れるべきです。

まとめ

内製開発チームの立ち上げは、「体制設計」「初期採用とコアメンバー形成」「開発プロセスと基盤の整備」「組織拡大と定着」という4つのフェーズを踏むことで、成功確率を大きく高められます。いきなり大規模な採用に踏み切るのではなく、スコープを絞った少数精鋭のチームから始め、小さな成功体験を積み上げながら段階的に拡大していくアプローチが、結果的に近道になります。

チームが拡大する過程では認識のズレが生じやすいため、責任者は意図的にコミュニケーションの頻度を上げ、事業側との連携フローを継続的に見直す姿勢を持ち続けることが、内製開発チームを一過性の取り組みで終わらせないための鍵です。


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この記事を書いた人

Kayoko Itoのアバター Kayoko Ito プロダクトマネージャー

東京工芸大学芸術学部卒業。IT企業での新規メディア開拓営業、広告プラットフォームの改善、ゲーム系メディア運営を経て、スキルシェアサービスのプロダクトオーナーとして牽引。

現在はフリーランスとして、新規事業・SaaS開発を支援するプロダクトマネージャー・UI/UXデザイナーとして活動。また、プロダクトマネージャーのメンタリングも行っています。

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