PdMは採用すべきか、外部に頼むべきか|「人の内製化と外注」を判断する5つの軸

プロダクトマネジメントを兼務してきた経営者が、そろそろ限界を感じたとき。選択肢は2つあります。

1人目のプロダクトマネージャー(PdM)を採用するか、外部の支援を受けるか。

この判断が難しいのは、比較の土俵が違うからです。採用は固定費で、長期で、一度決めると簡単には戻せません。外部委託は変動費で、短期で、やめるのも比較的容易です。性質の違うものを、同じ物差しで測ろうとするから決められないのだと思います。

本記事では、この判断を5つの軸に整理します。システムの内製化と外注を判断するときに使われるフレームワークですが、人に対しても同じ構造がそのまま使えます。 対象が「システム」から「判断そのもの」に変わるだけです。


目次

よくある3つの失敗

判断軸を整理する前に、実際に見てきた失敗のパターンを押さえておきます。

1. 「そろそろ増やす時期だから」で決める

事業が伸びて、手が回らなくなって、だから人を増やす。自然な流れに見えますが、これは判断軸ではなく、時期の話です。

手が回らないことと、PdMを採用すべきことは、直接つながりません。手が回らないのは、判断の量が増えたからかもしれませんし、作業の量が増えたからかもしれません。前者なら人を採る意味がありますが、後者なら別の解き方があります。

2. 採用コストを「年収」だけで見る

外部委託は月額が明示されるため、比較しやすく見えます。一方、採用のコストは年収だけを見て「外部より安い」と判断されがちです。

実際には、次のコストが乗ります。

  • 採用費(エージェント経由なら理論年収の30〜35%が相場)
  • 立ち上がり期間(1人目は前例がないため、3〜6ヶ月は成果より学習が中心になる)
  • 社長のマネジメント工数(採用後しばらくは、社長の時間はむしろ増える)
  • ミスマッチのリスク(1人目が合わなかった場合、採用からやり直しになる)

3年スパンで積み上げると、想定より差が小さい、あるいは逆転することも珍しくありません。

3. 何を任せるか決まっていないまま募集を出す

最も多い失敗です。求人票が書けない、という悩みの正体でもあります。

任せる範囲が決まっていない状態で採用すると、採用した側もされた側も、何をもって成功かが分かりません。 この状態は、外部委託でも同じように失敗します。つまりこれは、採用か外部かを決める前に解くべき問題です。

📌 関連記事:PRD(プロダクト要求仕様書)の書き方|社長の頭の中を「1人目のPdM」に渡すためのテンプレートと5項目


判断基準となる5つの軸

軸1:その判断は、自社の競争力の源泉か

任せようとしている領域が、事業の差別化に直結しているかどうかです。

社内に残すべきもの:顧客の解像度、なぜこの機能を先にやるのかという優先順位の癖、事業の時間軸に紐づいた判断。これらは事業そのものであり、外に出すと空洞化します。

外に出してよいもの:プロセスの型づくり、ドキュメントの整備、他社事例に基づく手法の導入。これらは汎用性が高く、経験のある人に任せたほうが速く仕上がります。

一般に、「何を作るか」は社内、「どう進めるか」は外部でも成立します。

軸2:判断の頻度

これが実務上、最も効く軸です。

毎日のように判断が必要な状態なら、社内に置く必要があります。 週次のミーティングで足りる程度なら、外部支援でも回ります。

判断の頻度は、プロダクトの開発サイクルと直結します。日々リリースして反応を見ている段階なら社内、四半期単位で大きく動かす段階なら外部で足ります。「忙しさ」ではなく「判断の頻度」で測ってください。

軸3:コスト構造(年収ではなくTCO)

先述のとおり、3年スパンで総額を比較します。

採用外部委託
費用の性質固定費変動費
初期コスト採用費+立ち上がり期間ほぼ無し
撤退のしやすさ低い高い
事業が伸び悩んだとき負担が残る縮小できる

事業の見通しが不確実な段階では、変動費のほうが構造的に有利です。 一方、継続的に判断が発生することが確実なら、固定費のほうが単価は下がります。

軸4:ノウハウが社内に残るか

外部に頼み続けると、判断の型が社内に蓄積されません。 支援が終わった瞬間に、また社長が全部見る状態に戻ります。

これを防ぐには、外部支援を受ける段階で「何を社内に残すか」を先に決めておく必要があります。具体的には、判断基準をドキュメントとして残す、社内のメンバーを1人並走させる、といった設計です。

「作業を代行してもらう」のではなく「型を作って引き渡してもらう」と考えると、外部委託の使い方が変わります。

軸5:どこまでの決定を渡すか

「外部の人に意思決定は任せられない」と言われることがありますが、実務はそこまで単純ではありません。 日々の仕様判断や優先順位付けは、外部のPdMが実際に担っているケースが多くあります。事業の文脈を共有していれば、その判断は十分に機能します。

違いが出るのは、決定の階層です。

決定の種類外部社内
日々の仕様判断・優先順位付け担える担える
機能単位のスコープ判断担えることが多い担える
事業の方向性・投資判断・組織社内の上層部が持つ段階的に担いうる

つまり**「渡せるか渡せないか」ではなく「どこで線を引くか」**の問題です。

そして重要なのは、その線が明確かどうかです。曖昧なまま進めると、外部の人は迷って確認を挟むようになり、結局スピードが落ちます。契約開始時に「どこまでを任せ、どこから相談するか」を決めておいてください。

社内と外部の本質的な違いは、この線が動くかどうかです。社内のPdMは、信頼の蓄積とともに線が上がっていきます。外部は原則として線が固定されます。

将来的に事業判断まで任せたいなら採用。線を固定したまま、判断の質と量を確保したいなら外部。 ここを言語化できると、判断は一気に楽になります。

📌 関連記事:AI時代のプロダクトマネージャーに必要なスキル|AIで自社サイトを作り直して分かった「代替されない仕事」


外部委託には、性質の違う2種類がある

ここで、判断を左右する前提を1つ補足します。「外部に頼む」と一括りにされがちですが、実際には性質の異なる2つの形があります。

スポット型伴走型(長期)
期間数ヶ月年単位
目的型を作る、特定の課題を解く判断に継続的に関わる
事業文脈の蓄積浅い社内メンバーに近い水準まで深くなる
総コスト小さい継続的にかかる
向く状況課題が特定できている判断の頻度は高いが、採用の確度や資金がまだ立たない

多くの記事は前者だけを想定して書かれていますが、実務では後者のほうが長く続きます。 同じ企業に3年、5年と関わり続けるフリーランスのPdMは珍しくありません。筆者自身、1社に3年関わった経験があり、現在も継続している支援先があります。

なぜ伴走型が成立するのか

事業の文脈は、時間をかけないと分からないからです。

「なぜこの機能を先にやるのか」の背景には、過去の商談で聞いた声、解約の理由、資金調達の時間軸といった蓄積があります。これは資料を読んで理解できるものではなく、一緒に見続けることで初めて共有されます。

逆に言えば、スポットで人が入れ替わり続けると、この蓄積が毎回リセットされます。 説明のたびに社長の時間が奪われ、しかも同じ説明を繰り返すことになります。

長期の外部パートナーは、この点で社内の人に近づきます。雇用よりは柔軟に、スポットよりは深くという中間の性質を持つため、「判断の頻度は高いが、まだ採用に踏み切れない」という段階と噛み合います。

伴走型を選ぶときの注意点

一方で、長期にすることで生まれるリスクもあります。導入する場合は、次の3点を意識してください。

1. ノウハウが個人に溜まりすぎる。 長く関わるほど、その人がいないと判断できない状態に近づきます。軸4で述べた「型の引き渡し」を、契約開始時だけでなく継続的に求め続ける必要があります。

2. 採用の検討が先送りになる。 回っているうちは困らないため、判断を保留したまま年単位が過ぎます。半期ごとに「今も外部で足りているか」を見直す前提を持ってください。

3. 線引きが曖昧なまま長期化しやすい。 関係が長くなるほど、任せる範囲は自然に広がります。それ自体は健全ですが、どこからが社内の決定なのかが不明確なまま進むと、責任の所在が曖昧になります。 任せる範囲が変わったときは、都度そのことを合意してください。


判断の進め方:3ステップ

ステップ1:任せたい業務を書き出し、軸1で仕分ける

いま社長がやっていることを、まず一覧にします。そのうえで「事業の差別化に直結するもの」と「型化できるもの」に分けます。

この作業は、それ自体に価値があります。何を任せるか決められないという悩みは、たいていこの棚卸しで解けます。

ステップ2:軸2で頻度を測る

分けた業務それぞれについて、判断がどのくらいの頻度で発生しているかを見ます。日次で発生しているものが多ければ社内、週次以下に収まるなら外部で足ります。

ステップ3:TCOを3年で試算する

採用の場合は、年収+採用費+立ち上がり期間の機会損失を積み上げます。外部委託の場合は、月額×契約期間に、社内で伴走する人の工数を足します。

この段階で差が小さければ、軸4と軸5で決めてください。 ノウハウを社内に残したいか、権限を渡したいか。この2つが最終的な決め手になります。


具体例:シリーズA前後のスタートアップ

従業員20名規模、プロダクトは1つ、社長がPdMを兼務している企業を想定します。

現状:日々の仕様判断は社長が行い、開発チーム5名が実装。顧客との商談も社長が担当しており、顧客の声が判断に直結している状態。ただし商談と仕様判断が競合し、どちらも中途半端になりつつある。

軸1での仕分け:顧客の声から優先順位を決める部分は競争力の源泉のため社内。一方、要件をドキュメントに落とす、開発チームとの進行管理、リリース後の効果測定の仕組みづくりは型化できる。

軸2での判断:優先順位の判断は日次で発生している。ドキュメント整備と進行管理は週次で足りる。

結論まず外部支援で型を作るという順序を選択。最初の3ヶ月でPRDのテンプレートと進行の型を整備し、社長の判断が文書として残る状態を作る。

そのうえで、着地は2通りに分かれます。

  • 採用に進む場合:型を持った状態で求人票を書き、1人目に型ごと引き渡す。立ち上がりが短縮できる
  • 伴走を続ける場合:資金や事業の確度がまだ立たないなら、外部パートナーとの関係を継続する。判断の頻度が高くても、事業文脈を共有した相手がいれば回る

重要なのは、採用か外部かを二者択一にしなかった点です。順序の問題として捉えると、両方を使えます。


現実的な着地は3パターン

内製と外注は排他的ではありません。人についても同じです。実務で機能しやすい構成を3つ挙げます。

パターンA:外部で型を作り、採用して引き継ぐ

  1. 外部支援で、社長の判断基準を文書化し、進め方の型を作る
  2. その型を前提に求人票を書く(何を任せるかが決まっている状態になっている)
  3. 採用した1人目に、型ごと引き渡す
  4. 外部支援はスポット契約に縮小する

採用のミスマッチリスクを下げながら、ノウハウを社内に残せます。 逆に、型がないまま採用して、うまくいかないから外部を呼ぶ、という順序はコストが二重にかかります。

パターンB:伴走型を継続する

採用に踏み切れる確度や資金がまだ立たない場合、外部パートナーとの関係を年単位で継続する選択です。

事業文脈を共有した相手が判断に関与し続けるため、判断の頻度が高くても回ります。稼働量を事業の状況に合わせて調整できるため、固定費を抱えずに済むのも利点です。「採用までのつなぎ」ではなく、それ自体が数年続く体制になることは実際にあります。

ただし前述のとおり、ノウハウが個人に溜まる点と、採用の検討が先送りになる点には注意が必要です。半期ごとの見直しを前提にしてください。

パターンC:採用した1人目と、外部が並走する

採用後も外部支援を残す形です。1人目のPdMは社内に相談相手がいないため、壁打ち相手として外部を残しておくと立ち上がりが安定します。

役割は変わります。日々の判断は社内に移り、外部は「初めて直面する場面での相談先」に回ります。稼働は大きく減らせます。


どのパターンが正解というものではありません。 事業の段階と、社長がどこまで判断を手放したいかで決まります。年単位で関係が続くこともあれば、3ヶ月で終わることもあり、どちらも成功の形です。


よくある質問(FAQ)

Q1. まだ判断がつきません。どちらから試すべきですか?

可逆性の高いほうから試してください。 外部委託は縮小・停止が容易ですが、採用は簡単には戻せません。迷っている状態は情報が足りない状態なので、情報を集めながら動ける選択肢を先に取るのが合理的です。

Q2. 外部に頼むと、社内にノウハウが残らないのでは?

契約の設計次第です。「作業を代行してもらう」形にすると残りません。「判断基準を文書化して引き渡してもらう」ことを成果物に含めれば残ります。 発注時に、何を納品物とするかを明示してください。

Q3. システムの内製化・外注の判断も、同じ軸で考えられますか?

はい、5つの軸はそのまま使えます。対象が「判断」から「システム」に変わるだけです。コア機能で変更頻度が高いものは内製、非コア業務で要件が固まっているものは外部パッケージやSaaS、という切り分けが基本になります。ただしスタートアップの場合、プロダクトそのものは最初から内製であることがほとんどなので、実際に迷うのは人のほうです。

Q4. 1人目を採用したあと、外部支援は不要になりますか?

役割が変わります。日々の判断は社内に移りますが、採用した人が初めて直面する場面での壁打ち相手としては機能し続けます。特に1人目は社内に相談相手がいないため、外部に接点を残しておくと立ち上がりが安定します。

Q5. 外部支援は、どのくらいの期間を想定すべきですか?

課題が特定できていて型づくりが目的なら3〜6ヶ月、判断に継続的に関わってもらうなら年単位になります。「短いほど良い」というものではありません。 事業の文脈は時間をかけないと共有されないため、入れ替わりが多いほど説明コストがかさみます。実際に3年、5年と続く関係も珍しくありません。

ただし惰性で続けないために、半期ごとに「今も外部で足りているか」「社内に何が残ったか」を確認する場を設けることをおすすめします。


まとめ

PdMを採用するか、外部に頼むか。この判断は、次の5つの軸で整理できます。

  1. 競争力の源泉か —— 「何を作るか」は社内、「どう進めるか」は外部でよい
  2. 判断の頻度 —— 日次なら社内、週次以下なら外部で足りる
  3. コスト構造 —— 年収ではなく3年のTCOで比較する
  4. ノウハウが残るか —— 「代行」ではなく「型の引き渡し」を成果物にする
  5. どこまでの決定を渡すか —— 日々の判断は外部でも担える。線が動いていくのが社内、固定されるのが外部

そして多くの場合、二者択一ではなく順序の問題です。外部で型を作り、その型を持った状態で判断する。着地は3通りあります。

  • A:型を作って採用に進む —— ミスマッチのリスクを下げ、ノウハウを社内に残す
  • B:伴走型を年単位で継続する —— 採用の確度が立つまで、あるいはそれ自体を体制とする
  • C:採用した1人目と外部が並走する —— 立ち上がりを安定させる

Bを「つなぎ」と捉える必要はありません。 事業の文脈は時間をかけないと共有されないため、長く関わる相手がいることには固有の価値があります。実際に数年続く関係は珍しくありません。ただし、ノウハウが個人に溜まる点と採用の検討が先送りになる点には注意が必要なので、半期ごとの見直しを前提にしてください。

まずは、いま社長がやっていることを一覧にして、軸1で仕分けるところから始めてみてください。何を任せるか決められないという悩みは、たいていこの棚卸しの段階で解けます。


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この記事を書いた人

Kayoko Itoのアバター Kayoko Ito プロダクトマネージャー

東京工芸大学芸術学部卒業。IT企業での新規メディア開拓営業、広告プラットフォームの改善、ゲーム系メディア運営を経て、スキルシェアサービスのプロダクトオーナーとして牽引。

現在はフリーランスとして、新規事業・SaaS開発を支援するプロダクトマネージャー・UI/UXデザイナーとして活動。また、プロダクトマネージャーのメンタリングも行っています。

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