採用したPdMが立ち上がらないとき|経営者が見直すべき5つの原因と立て直しの手順

苦労して1人目のPdMを採用したのに、着任から3か月経っても状況がほとんど変わっていない——プロダクトに関わる判断のたびに確認が入り、自分がプロダクトを見る時間は思ったほど減っていない。そんな手応えのなさを感じている経営者は少なくありません。

このとき最初に浮かぶのは「採用を間違えたのではないか」という疑いですが、実際には本人の能力以外に原因があることのほうが多いのが実情です。任せる側の準備、権限の渡し方、期待役割のすり合わせといった要素が絡み合って「立ち上がらない」状態がつくられています。本記事では、採用したPdMが立ち上がらないときに考えられる5つの原因と、どれが効いているかを切り分ける方法、そして30日で立て直すための手順を解説します。

目次

「立ち上がらない」とは具体的にどういう状態か

まず、何をもって「立ち上がっていない」と判断しているのかを整理します。経営者が違和感を覚えるのは、だいたい次のような場面です。

  • 優先順位や仕様の判断を、最終的に経営者が決めている
  • チームやステークホルダーが、PdMではなく経営者に相談を持ち込む
  • 経営者がプロダクトに使う時間が、採用前と比べてほとんど減っていない
  • PdM本人から上がってくるのが「どうしましょうか」という相談ばかりで、「こうしたい」という提案が出てこない

共通しているのは、意思決定の重心が経営者側に残っていることです。採用の目的が「自分がプロダクトを見る時間を減らすこと」だったとすれば、この状態は目的を果たせていません。まずはこの症状を具体的に書き出すところから始めると、後の原因の切り分けがしやすくなります。

PdMが立ち上がらない5つの原因

「立ち上がらない」と一言でいっても、その裏にある原因は一つではありません。以下の5つに整理すると、自社のケースがどれに当てはまるかを考えやすくなります。

  • 原因1:判断の根拠が渡っていない — 過去の意思決定の背景(なぜこの機能を作ったか、なぜこの優先順位か)が本人に共有されておらず、判断材料を持たないまま動いている。
  • 原因2:権限を渡しきっていない — 「決めていい」と口では言っているが、実際には経営者が細かく修正するため、本人も周囲も「最後は経営者が決める」と学習している。
  • 原因3:期待役割がすり合っていない — 何をどこまで任せたのかが曖昧で、本人が「越権かもしれない」と踏み込めずにいる。
  • 原因4:キャッチアップの時間を与えていない — 着任直後から成果を求めてしまい、顧客・プロダクト・競合を理解する助走期間がない。
  • 原因5:求めるレベルと本人の型が合っていない — 採用時に見極めきれず、任せたい役割に対して経験・スキルが不足している(本当のミスマッチ)。

多くの場合、原因は1つではなく複数が重なっています。ただし、最も効いている原因を1つ仮に特定することが、立て直しの出発点になります。

原因1:判断の根拠が渡っていない

PdMが判断できない最大の理由は、判断に必要な情報を持っていないことです。優先順位や仕様は、過去の失敗・顧客の生の声・競合の動き・チームの力量といった、ドキュメントに残っていない文脈の上に成り立っています。この背景を渡さないまま権限だけを移すと、本人は手探りで動くしかなく、結局は経営者に確認するのが最も確実、という状態になります。

📌 関連記事:PdMへの引き継ぎの進め方|1人目採用後に経営者が渡すべき業務と3つのステップ

原因2:権限を渡しきっていない

「決めていいよ」と伝えていても、本人が出した結論を経営者が毎回細かく修正していれば、実質的な権限は移っていません。周囲も「PdMに相談しても、どうせ経営者がひっくり返す」と学習し、相談を経営者に持ち込むようになります。明らかな事実誤認がある場合を除き、任せた範囲の判断は多少自分の考えと違っても通す、という姿勢が信頼構築の前提になります。

📌 関連記事:プロダクトマネジメント兼務の限界とは|経営者が見落としがちな4つのサインと打ち手の選び方

原因3:期待役割がすり合っていない

「プロダクトのことは任せた」という曖昧な渡し方では、本人はどこまで踏み込んでよいか分かりません。特に、経営者が感覚でこなしてきた業務を職務として言語化していない場合、任せる範囲そのものが宙に浮きます。何を任せ、何は経営者が握り続けるのかを一度書き出して共有するだけで、立ち上がりが変わることは多いです。

📌 関連記事:PdM業務の棚卸しと言語化の方法|「感覚でこなしてきた仕事」を4ステップで整理する

原因4:キャッチアップの時間を与えていない

着任初日から「次のスプリントの優先順位を決めてほしい」と求めても、顧客が誰で何に困っているかを知らない状態では判断できません。一般的なPdM経験があっても、自社プロダクト固有の文脈はゼロから積み上げる必要があります。最初の30日は意思決定を求めず、顧客対応への同席や過去資料の読み込みに充てる設計が有効です。

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原因5:求めるレベルと本人の型が合っていない

ここまでの4つを手当てしても状況が変わらない場合に、初めて本当のミスマッチを疑います。任せたい役割が「探索的に仮説を検証してプロダクトの方向性を決めること」なのに、本人の経験が「決まった仕様を形にすること」に寄っている、といったズレです。この場合は役割の再定義か、外部の伴走で型を補う対応を検討します。

どの原因が効いているかを切り分ける

5つの原因のうち、自社でどれが最も効いているかは、次の3つの問いで見当がつきます。

  1. 本人に「なぜ決められないのか」を直接聞いたとき、何と答えるか。 「材料が足りない」なら原因1、「どこまで決めていいか分からない」なら原因3、「決めても結局変わる」なら原因2を強く疑います。
  2. 経営者が修正した判断を、後から振り返って数えられるか。 直近1か月でPdMの判断を何回、どんな理由で覆したかを書き出します。回数が多く、かつ「好みの違い」程度の理由が混じっていれば原因2です。
  3. 着任後、顧客と直接話した回数は何回か。 片手で数えられる程度なら、原因4(キャッチアップ不足)が土台にあります。

この3つを確認すると、たいていは原因1〜4のどこかに行き当たります。いきなり原因5(ミスマッチ)と結論づけるのは、他の4つを潰してからにします。

立て直しの手順(30日)

原因の見当がついたら、30日を区切りに立て直します。

  1. 現状の「任せ具合」を可視化する(1週目)。 プロダクトに関わる意思決定を10〜15項目リストアップし、それぞれ「今は誰が最終決定しているか」を書き込みます。経営者が握っている項目と、その理由を明らかにします。
  2. 原因を1つ仮特定し、本人と共有する(1週目)。 上の切り分けをもとに「今の一番のボトルネックはこれだと考えている」と率直に伝え、認識が合っているかを確認します。ここで本人の見立てとズレていれば、それ自体が原因3(すり合わせ不足)のサインです。
  3. 30日の立て直しプランを一緒に作る(2週目〜)。 原因1なら「過去の主要な意思決定を週2回、背景つきで語る場を設ける」、原因2なら「この5項目は今日から経営者は口を出さない」、原因4なら「今月は顧客10社と直接話す」といった、具体的な行動に落とします。
  4. 定例を「承認の場」から「壁打ちの場」に変える(3〜4週目)。 「これでいいですか」と聞かれる関係から、「こう考えているが見落としはないか」と相談される関係へ移せているかを、30日時点で1と同じリストを使って再確認します。

📌 関連記事:1人目のPdMの評価と目標設定|職種特有の4つの評価軸と1on1の進め方

よくある失敗:「本人の能力不足」と結論を急ぐ

立ち上がらない状態が2〜3か月続くと、経営者は「採用を間違えた」と考えがちです。しかし、判断の根拠を渡さず、権限も渡しきらず、キャッチアップの時間も与えていない状態であれば、どんな経験者でも立ち上がりません。原因5(本当のミスマッチ)を疑うのは、原因1〜4を手当てして、なお変化がない場合に限るべきです。

逆に、原因が明らかにミスマッチであるにもかかわらず、「もう少し様子を見よう」と半年以上引き延ばすのも、本人・チーム双方にとって負担が大きくなります。30日の立て直しを一度きちんと回したうえで判断する、という区切りを最初に決めておくことが、どちらの方向にも動きやすくします。

具体例:従業員18名、BtoB SaaSスタートアップのケース

従業員18名、創業4年目のBtoB SaaSスタートアップの例です。経営者がプロダクトマネジメントを兼務してきましたが、開発案件が増えたため1人目のPdMを採用しました。前職でもPdM経験のある人でした。

着任から3か月、経営者の実感としては「ほとんど何も変わっていない」状態でした。切り分けの3つの問いを試したところ、本人の答えは「決めても、後から経営者が変えることが多いので、先に確認したほうが早い」。直近1か月で経営者が覆した判断は11件あり、うち半分以上は「自分ならこうする」という好みの範囲でした。原因2(権限を渡しきっていない)が最も効いていると判断しました。

そこで、意思決定リスト15項目のうち8項目を「今日から経営者は意見を言わない」と本人・チームの前で宣言し、残り7項目も判断理由を確認するだけにとどめました。最初の2週間は経営者側が口を出したくなる場面が続きましたが、30日後には、チームからの相談がPdMに集まるようになり、経営者がプロダクトに使う時間は週の半分以下に減りました。能力の問題ではなく、渡し方の問題だったケースです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 立ち上がらないと感じてから、どのくらいで手を打つべきですか?

着任から2か月が一つの目安です。1か月目はキャッチアップ期間として様子を見て構いませんが、2か月経っても意思決定の重心が経営者に残っているなら、原因の切り分けを始めることをおすすめします。

Q2. 本人にプレッシャーを与えずに原因を確認するには、どう聞けばよいですか?

「あなたの評価をしたいのではなく、任せる側の準備に抜けがあったと思っている」と前置きしたうえで、「決めきれない場面で、何が一番足りないと感じるか」を聞くと、本音が出やすくなります。

Q3. 権限を渡すと決めても、つい口を出してしまいます。どうすれば止められますか?

「口を出さない項目」をリストで明文化し、チームにも共有するのが最も効きます。本人だけでなく周囲も見ている状態にすると、経営者自身にブレーキがかかります。

Q4. 30日の立て直しをやっても変化がない場合、次はどうすべきですか?

原因1〜4を一通り手当てしても変わらないなら、原因5(役割と経験のミスマッチ)の可能性が高くなります。役割の再定義(任せる範囲を狭める)か、外部の顧問・メンターで型を補うか、いずれかを検討します。

Q5. そもそも立ち上がらない状態を防ぐには、採用の時点で何を見ればよいですか?

任せたい役割を具体的な場面に分解し、その場面で本人がどう判断してきたかを面接で確認しておくと、着任後のギャップを小さくできます。詳しくは関連記事「PdM採用面接の質問例」で解説しています。

📌 関連記事:PdM採用面接の質問例|1人目採用で見極めるべき5つの視点と3つの落とし穴

まとめ

採用したPdMが立ち上がらないとき、その原因は「判断の根拠が渡っていない」「権限を渡しきっていない」「期待役割がすり合っていない」「キャッチアップの時間がない」「求めるレベルと本人の型が合っていない」の5つに整理できます。多くは複数が重なっていますが、3つの問いで最も効いている原因を1つ仮特定し、30日を区切りに立て直すのが有効です。「本人の能力不足」と結論づけるのは、他の4つを手当てしてからにしてください。

まずは、プロダクトに関わる意思決定を10項目書き出し、それぞれ今は誰が決めているかを確認するところから始めてみてください。


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この記事を書いた人

Kayoko Itoのアバター Kayoko Ito プロダクトマネージャー

東京工芸大学芸術学部卒業。IT企業での新規メディア開拓営業、広告プラットフォームの改善、ゲーム系メディア運営を経て、スキルシェアサービスのプロダクトオーナーとして牽引。

現在はフリーランスとして、新規事業・SaaS開発を支援するプロダクトマネージャー・UI/UXデザイナーとして活動。また、プロダクトマネージャーのメンタリングも行っています。

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