AI時代のプロダクトマネージャーに必要なスキル|AIで自社サイトを作り直して分かった「代替されない仕事」

「AIがここまでできるなら、プロダクトマネージャーを雇う必要はあるのだろうか」

プロダクトマネジメントを兼務している経営者の方から、この問いを聞く機会が増えました。無理もありません。要件定義書もPRDも画面設計も、AIに頼めば数十分で形になる時代です。人を採用して育てるコストと時間を考えれば、当然出てくる疑問だと思います。

この問いに答えるために、筆者は2026年7月、自社のコーポレートサイトをAI(Claude Fable 5)と一緒に作り直しました。ミッション・ビジョン・バリューの再構築から、要求定義、要件定義、デザインシステム、モックアップ、実装まで。実工数はおよそ14時間でした。

結論から書きます。AIによって代替されたのは「作る仕事」であり、残ったのは「決める仕事」と「決めるための材料を人から引き出す仕事」でした。 そしてこの変化は、PdMに求めるスキル要件そのものを書き換えます。

本記事では、この事例をもとに、AI時代のPdMに何が必要かを整理します。技術トレンドの解説ではなく、採用や体制を判断する立場の方が意思決定に使えることを目的とした内容です。


目次

AIが最も効いたのは、下流ではなく上流だった

AI活用を検討するとき、多くの企業は下流から入ります。コードを書かせる、議事録を取らせる、資料の初稿を作らせる。作業が目に見えていて、削減時間を測りやすいからです。

しかし今回の事例で最も効果が大きかったのは、上流でした。

具体的には、次の順序で進めています。

  1. ミッション・ビジョン・バリューの再構築
  2. 要求定義(なぜ作り直すのか、何を解決したいのか)
  3. 要件定義(サイトマップ、ページごとの要件)
  4. デザインシステム(配色、質感の方針)
  5. モックアップ
  6. 実装

このうち1から4は、成果物を作らせるためではなく、考えを整理するためにAIを使っています。対話しながら、頭の中にあるものを言葉にしていく作業です。

結果として、5のモックアップは一度の指示でほぼ手直し不要の状態で出てきました。ただしこれは、モックアップを生成する性能が高かったからではありません。そこに至るまでの4段階が地続きだったからです。

層をまたぐ文脈の伝達が、自動化された

従来のプロダクト開発で、実務上いちばん手間がかかっていたのは何か。

要件定義書を書くことでも、デザインを作ることでもありません。「前の層で決めたことを、次の層に正しく伝える」作業です。

要件定義書は立派なのにデザインが的外れ、という事態は珍しくありません。ドキュメントは残っていても、なぜそう決めたのかという文脈が、層をまたぐ過程で抜け落ちるからです。だからPdMやデザイナーが会議で繰り返し説明し、認識を揃え直す。この「揃え直し」が、プロジェクトの実作業のかなりの割合を占めていました。

今回の事例では、これがほとんど発生しませんでした。配色を決める場面でその根拠がバリューの言葉に遡れる、ページ構成を検討する場面で要求定義に書いた「誰に何を伝えたいのか」がそのまま判断材料になっている、という状態が最後まで維持されたためです。

これまで人間が会議で担ってきた文脈の伝達が、初めて機械側に移ったというのが、今回の最も大きな変化でした。

📌 関連記事:プロダクトマネージャーの要求定義の進め方|「本当の課題」を掘り当てる5ステップ

だから「AIを入れたのに成果が出ない」が起きる

この構造が分かると、よくある失敗の理由も見えてきます。

上流を飛ばして「いい感じのサイトを作って」と頼めば、何度も往復することになります。要求が曖昧なまま制作に入れば手戻りが出るのは、相手が人でもAIでも変わりません。

「AIを導入したのに成果が出ない」という相談を受けることがありますが、多くの場合、問題はツールの性能ではありません。整理されていないものを、高速に処理しているだけの状態になっています。工数は減りますが、成果物の質は上がりません。

AIによって成果物の質そのものが上がるのは、判断の根拠が一貫しているときだけです。そしてその一貫性は、下流をいくら効率化しても手に入りません。


AIに代替されなかった3つの仕事

では、上流をAIと一緒にやったとき、人間側には何が残ったのか。今回の事例で明確に残ったものが3つあります。

1. 「何を作りたいのか」を持っていること

AIとの対話で出てきたミッション・ビジョン・バリューの文章は、正直なところ、筆者が自力で書ける水準を超えていました。頭の中にぼんやりあったものが、自分では届かなかった精度で言語化されていく感覚がありました。

ただしこれは、素材が頭の中にあったから成立しています。

5年分の判断の蓄積、うまくいった案件といかなかった案件の差、繰り返し依頼される仕事の傾向。こうした素材があったからこそ、対話を通じて構造化できました。素材がない状態で同じ対話をしても、一般論として整った文章が出てくるだけです。

AIは、頭の中にあるものの精度を上げます。頭の中にないものを作り出すことはできません。

2. 判断の責任を引き受けること

今回、技術的にはAIにWordPressの管理権限を渡して直接更新させることもできました。そのほうが確実に速い。しかし実際には、コードをAIに書いてもらい、自分でコピーして貼り付け、表示を確認して崩れていたら報告して直してもらう、という手作業を選んでいます。

理由は、公開されている資産が壊れたときに、何が起きたのか自分で説明できない状態を避けたかったからです。

これは技術の問題ではなく、どこまでのリスクを引き受けるかという判断です。自社サイト・自分一人の裁量でさえこの判断が必要でした。これが基幹システムで、複数の担当者が関わり、止まれば業務に影響が出る状況なら、判断はさらに重くなります。

そしてこの判断は、エンジニアだけでは決められません。何が壊れたら困るのか、誰が責任を持つのか。それを決められる立場の人が関わる必要があります。AI導入の検討で実際に詰まるのは、ツール選定や費用ではなく、ここです。

3. 人の頭の中を、外に出すこと

そして3つめが、本記事で最も強調したい点です。

今回の事例は、素材の持ち主と、AIと対話する人が同一人物でした。だから成立しました。頭の中にあるものを、自分で言語化しながら降ろしていけばよかったからです。

しかし組織では、この2つが分かれます。

「何を作りたいのか」を持っているのは経営者です。一方、それを構造化してAIに渡せる形にする作業は、経営者本人がやるとは限りません。というより、経営者の時間は有限なので、本人がやり続けることはできません。

ここに、AI時代のPdMの新しい仕事が生まれます。


社長がPdMを兼務している場合、何が起きるか

プロダクトマネジメントを経営者が兼務している企業にとって、ここまでの話は良い知らせと悪い知らせの両方を含んでいます。

良い知らせは、AIとの相性が極めて良いことです。

上流の整理でAIが効くのは、素材を持っている人が使ったときです。社長は、事業の方向性も、顧客のことも、なぜこの機能が必要なのかも、すべて頭の中に持っています。AIを使ううえで最も強い立場にいるのは、実は社長本人です。外部のコンサルタントより、雇ったばかりのPdMより、素材の量で勝っています。

悪い知らせは、それでも詰まることです。

理由は2つあります。

1つは、時間です。上流の整理は、対話を重ねる作業です。AIが速くなっても、社長が対話に使える時間は増えません。事業が伸びるほど、この時間は削られていきます。

もう1つは、社長の頭の中は社長にしか出せないことです。他の誰かが代わりに整理しようとしても、素材を持っていないので一般論になります。かといって社長がやり続ければ、事業判断に使う時間が削られます。

この構造がある限り、AIを導入しても「社長のボトルネック」は解消しません。 むしろ下流が速くなるぶん、上流の詰まりが目立つようになります。

📌 関連記事:プロダクトマネージャーのバックログ管理|優先順位付けの実践フレームワークと迷わない運用のコツ


1人目のPdMに求めるものが変わった

以上を踏まえると、AI時代に採用すべきPdM像は、従来とは変わります。

従来:作業を引き取る人

これまで1人目のPdMに期待されていたのは、社長が抱えている作業を引き取ることでした。要件定義書を書く、バックログを整理する、開発チームとの調整をする。手が足りないから、手を増やすという発想です。

この発想は、AIによって前提が崩れました。書類を作る作業、整理する作業、初稿を起こす作業は、AIのほうが速く安くできます。

これから:社長の頭の中を引き出して、構造化できる人

AI時代に価値があるのは、素材を持っている人から素材を引き出し、AIに渡せる形に構造化できる人です。

具体的には、次の3つができる人材です。

①ヒアリングして言語化する力

社長が「なんとなくこうしたい」と思っていることを、対話を通じて構造化する。これはユーザーインタビューのスキルとほぼ同じです。相手が言語化できていない前提を、誘導せずに引き出す技術が必要になります。

②文脈を層に降ろす設計力

引き出したものを、要求→要件→仕様と降ろしていく。このとき重要なのは、各層で「なぜそう決めたのか」を保持することです。AIはこの一貫性を保つのが得意ですが、最初の一段目に何を置くかは人間が決めます。

③AIの出力を評価して差し戻せる判断力

AIが出したものを、そのまま通すか差し戻すかを判断する力です。これには基準が要ります。基準は、①で引き出した社長の判断軸から来ます。

つまり、AI時代のPdMの中核スキルは「作る力」ではなく「引き出す力」と「判断基準を持つ力」に移りました。

📌 関連記事:PRD(プロダクト要求仕様書)の書き方|項目別テンプレートと実践フレームワーク

求人票に書くべきこと・書くべきでないこと

この変化は、求人票にそのまま反映されます。

従来よく書かれていたことAI時代に見るべきこと
経験PRD・要件定義書の作成経験経営者・事業責任者からの要求ヒアリング経験
スキルJIRA・Figma等のツール経験AIツールを業務に組み込んだ経験と、その評価基準
成果担当プロダクトの規模・売上曖昧な要望を構造化した具体例
資質調整力・推進力判断基準を言語化し、他者に説明できること

書類作成の経験年数を要件に置くと、AIで代替できる領域の人材を採ることになります。見るべきは、「決まっていないものを、決まる状態にした経験」です。


AI時代のPdMに必要なスキル(整理)

ここまでの内容を、スキル要件として整理します。採用面接の評価軸としても、既存メンバーの育成方針としても使える形にしています。

1. 要求の引き出し(Elicitation) 言語化されていない要望から、判断の前提を引き出す力。ユーザーインタビューの技術がそのまま応用できる。AI時代に最も価値が上がったスキル。

2. 判断基準の言語化 「なぜそう決めたのか」を他者が再現できる形で書く力。この基準がなければ、AIの出力を評価できない。

3. 層をまたぐ一貫性の設計 要求→要件→仕様→実装で、判断の根拠を失わせない設計力。AIが一貫性を保ちやすい形で情報を渡す技術を含む。

4. AI出力の評価と差し戻し 生成物の品質を、基準に照らして判断する力。「なんとなく違う」ではなく、どの基準に照らして不足なのかを説明できること。

5. リスクの線引き どこまでAIに任せ、どこから人が確認するかを設計する力。技術判断ではなく経営判断に近い領域。

6. AIプロダクト固有の不確実性の理解 自社プロダクトにAIを組み込む場合に必要。出力が確率的に変動することを前提に、品質の閾値とフォールバックを設計する。

7. 学習し続ける仕組みを持つこと AI領域のベストプラクティスは1〜2年で更新される。個人の努力ではなく、更新する仕組みを持っているかを見る。

1から5は、AIを使う立場としてのスキルです。社長がPdMを兼務している段階で、まず必要になるのはこの5つです。6は自社プロダクトにAIを組み込む段階で、7は組織として継続する段階で必要になります。


FAQ

Q1. AIがあれば、PdMの採用を先延ばしにできますか?

作業の代替という意味では、一定期間は可能です。ただし本記事で述べたとおり、AIが最も効くのは上流であり、上流には社長の時間が必要です。AIを導入すると、下流が速くなるぶん社長の稼働がボトルネックとして顕在化します。 「AIを入れたら、かえって自分の時間が足りなくなった」という状態が判断のタイミングです。

Q2. 採用ではなく、外部の支援でも対応できますか?

要求の引き出しと構造化に限れば、外部支援でも成立します。むしろ、社内に前提を共有していない外部の人のほうが、「なぜそうなのか」を素朴に聞けるという利点があります。一方で、日々の意思決定に継続的に関与する必要がある段階では、社内に置くほうが機能します。判断の頻度で切り分けるのが現実的です。

📌 関連記事:システム内製化と外注の比較|判断基準となる5つの軸と失敗しない意思決定フレームワーク

Q3. PdMにコーディングスキルは必要ですか?

必須ではありません。ただしAI時代においては、「AIに何をどう頼めば、どの程度のものが返ってくるか」の感覚は必要です。これは実際に自分で使ってみることでしか身につきません。コードが書けるかどうかより、AIツールを自分の業務に組み込んで運用した経験があるかを見るほうが実務に近い評価になります。

Q4. 1人目の採用で、最も避けるべき失敗は何ですか?

社長が言語化しないまま採用することです。 何を任せるか決まっていない状態で人を入れると、採用された側は指示待ちになるか、独自の解釈で動き始めます。どちらも機能しません。採用の前に、社長自身が「自分は何をどう判断してきたのか」を一度書き出す工程を挟むことを推奨します。この工程自体は、AIとの対話でかなり短縮できます。


まとめ

AIによってプロダクトマネジメントの仕事は確かに変わりました。ただし変わったのは、多くの人が予想した方向とは違いました。

  • 代替されたのは「作る仕事」(書類作成、初稿生成、整理作業)
  • 残ったのは「決める仕事」(判断基準を持つこと、リスクを引き受けること)
  • 価値が上がったのは「引き出す仕事」(人の頭の中にあるものを、構造化して渡せる形にすること)

AIが最も効くのは上流であり、上流には素材の持ち主が必要です。そして素材を持っているのは、多くの場合、社長本人です。

したがって「AIがあるからPdMは要らない」ではなく、「AIがあるから、PdMに求めるものが変わった」というのが実務からの結論です。 手を増やすための採用から、社長の頭の中を外に出すための採用へ。1人目を検討する段階の企業ほど、この違いが成果を分けます。

なお、本記事の事例(AIによる自社サイト構築)の実際の進め方や、うまくいかなかった部分については、noteに体験の記録として書いています。あわせてご覧ください。


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この記事を書いた人

Kayoko Itoのアバター Kayoko Ito プロダクトマネージャー

東京工芸大学芸術学部卒業。IT企業での新規メディア開拓営業、広告プラットフォームの改善、ゲーム系メディア運営を経て、スキルシェアサービスのプロダクトオーナーとして牽引。

現在はフリーランスとして、新規事業・SaaS開発を支援するプロダクトマネージャー・UI/UXデザイナーとして活動。また、プロダクトマネージャーのメンタリングも行っています。

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